今月の一枚

2011年8月 リトレックSP ルミナント105mmF3.5

2011年8月 リトレックSP ルミナント105mmF3.5

右手側から。レールを最短撮影位置まで伸ばしたところ。

背面から。

6x9cm判ロールフィルムホルダーの構造。

ルミナント92mmF4.5レンズはもっとも広角である。

シャッター幕の交換。

シャッター調速機構部。

シャッターおよびミラー駆動部。

ピントグラス。

ルミナント105mmF3.5レンズの分解清掃。

作例1 伝法院通り 1/200 F8

作例2 仲見世通り 1/200 F8

作例3 浅草寺五重塔 1/200 F8

作例4 東京スカイツリー 1/200 F8

作例5 宝蔵門 1/200 F8

 

解説

最近弊社には中・大判一眼レフカメラの修理依頼が良くあります。今回ご紹介するリトレックもその中の一台です。武蔵野光機が昭和30年代に製造した我が国最初の6x9cm中判システム一眼レフカメラで、いろいろユニークな特徴があります。

まず全体の構造は、戦前の木製大型一眼レフカメラによく似たいわゆる箱型一眼レフです。ボディは近代的なアルミ・ダイカスト製となっていて、ボディ部の重さは約2kgと比較的軽量です。これは当時の営業写真家が出張撮影時などに携行する際の重量軽減に貢献したと言われていて、交換レンズやロールフィルムホルダーなどの付属品を含めても荷物がコンパクトにまとまり好評だったそうです。

シャッターは布幕製フォーカルプレーン式で、初期型はT、Bと1/20秒~1/500秒でした。一眼レフの反射ミラーはシャッターを切ると上がりっぱなしなり、シャッターチャージと同時に復元するオーソドックスな方法となっています。おもしろいことにミラーショックの軽減を目的とした反射ミラーの上昇をゆっくり行わせる緩速機構が備わっています。

ピントはカメラ上部のピントフードを跳ね上げてピントグラスをする観察することによりますが、ピントフードには光学式の透視ファインダーも備わっています。

交換レンズは座金にとりつけて交換する方式です。初代のリトレックI型には、標準レンズとしてマミヤ・セコール105mmF3.5が供給されただけで、使用者は座金を購入して自分が使いたいレンズを取り付けて撮影していました。その後自社製のルミノン、ルミナントレンズ群が、広角92mmから望遠400mmの範囲まで供給されました。

ロールフィルムホルダーは2種類用意されていて、セミ判から6x7cm判までの切り替え式と、6x9cm判専用のものでした。またシートフィルムの使用も可能でした。ただしこのカメラにはレボルピング機構が備わっていないので、横位置撮影のみです。

リトレックの歴史をおおまかに振り返ってみると、初代リトレックI型は昭和31年(1956年)に発売されました。昭和32年に登場したⅡA型はピントグラスの下にフレネルレンズを追加、標準レンズをプリセット式絞りを採用したルミナント105mmF3.5を備えたモデルでした。翌年発売されたⅡB型は、ピントフードが取り外し可能となっています。最終型となったSP型は昭和36年に発売されました。1/2~1/8秒のスローが追加され、シャッター軸は不回転の2軸式となっています。またシンクロ接点はFP接点とX接点が備わり、シンクロ撮影が行いやすくなりました。昭和36年頃の定価は54,800円でした。このカメラはレトリックⅡAの頃から海外にも輸出され、さらに別名のオプティカ(Optika)ⅡA(ただし最高速が1/400秒)も知られています。

今回のリトレックSPは、シャッター幕交換、シャッターおよびミラー機構部分解整備、スクリーン分解清掃、レンズ分解清掃、外観清掃、ロールフィルムホルダー分解整備という完全なオーバーホールを行いました。費用は63,000円(税込み)で、期間は約2ヶ月でした。整備後は作例写真を見てわかるように、シャープな写真が安定して撮影できるようになりました。こうしたカメラの整備については、カメラ本体の状態を拝見してからお見積もりさせていただきますので、窓口までご相談ください。

作例写真 フィルムはすべてフジ160NX