今月の一枚

2013年10月 ツァイス・イコン ピコレット・ルクサス/ テッサー75mmF3.5

右のスポーツファインダーのフレームは収納時には折り畳む。

スポーツファインダーの接眼部は、収納すると赤窓を覆い隠すようになっている。

矢来型のたすき。

収納したところ。

前板部の分解整備。

作例1 青空 F11 1/200

作例2 いつものビル F11 1/200

作例3 不思議なお店 F11 1/200

作例4 早田カメラ店前 F8 1/200

解説

先月はツァイス・イコン社の戦後の最高級カメラ、コンタレックスをご紹介いたしましたが、今回は戦前世界の最大のカメラメーカーとして君臨していたツァイス・イコン社のカメラの中で、かわいらしいピコレットをご紹介いたします。

ピコレットはまだツァイス・イコン社になる前の1919年、コンテッサ・ネッテル社から発売された蛇腹折り畳み式のコンパクトなカメラです。フィルムはベスト判(127判)を使用し、4×6.5cmのサイズの写真を撮影することができます。このカメラを設計したのは、戦前から戦後にかけてドイツを代表するカメラ設計者として有名なナーゲル博士でした。ナーゲル博士は当時はコンテッサ・ネッテル社を経営していました。ナーゲル博士は1912年、アメリカで発売されたコダック社の、これも有名なベスト・ポケット・コダック(VPK)が大成功を収めたことに倣い、VPKの欠点を改善したカメラとしてピコレットを開発したそうです。実際ピコレットはVPKに非常によく似ていて、さらに使いやすく、安定した写真が撮れるカメラに発展しています。

ピコレットは、前板を引き出して撮影体勢にします。レンズはメニスカス単玉からテッサーまでさまざまなグレードのレンズがあり、シャッターも3段階のアクロ(ACRO)から1秒~1/300秒をカバーする旧コンパーまで、いくつものグレードがありました。コレクションしてみるのもおもしろいカメラだと思います。ピコレットはツァイス・イコン社になってからも販売が続けられましたが、会社の方針としてベスト判のフォーマットはセミ判に整理することとなり、1930年代中頃に姿を消しました。なお、日本の小西六がこのピコレットを真似てパーレット(Pearlette)を作ったこともよく知られています。

さて、コンテッサ・ネッテル社の時代からピコレットには上位機がありました。それがピコレット・ルクサスです。ピコレットの名前が付けられていますが、前蓋が前板部を覆っていて、引き出すときには前蓋がベッドになるという構造が異なるカメラです。ピント合わせもベット部のノブを操作すると、前板部全体が前後してピント合わせを行います。実はコンテッサ・ネッテル社にはアトム判のハンドカメラにドゥチェッサ(Duchessa)というカメラが1925年頃登場していますが、これをベスト判のロールフィルムカメラに仕立て直したものといえます。ピコレット・ルクサスはその名の通り豪華型で、外装はオシャレな茶革貼りで、ベローズはタン色の仕上げです。たたずまいが美しいことで、昔から人気があるカメラでした。ツァイス・イコン社では、このピコレット・ルクサスは1930年頃まで製造されました。コード番号は546/12です。

今回弊社で整備したカメラで撮影してみましたが、レンズはテッサーですからとてもシャープな描写でした。ただ、ベスト判フィルムは裏紙があるためかフィルムの平面性が悪く、ところどころピントがぼけてしまっています。この点は残念でした。弊社ではオリジナルのピコレットも、このルクサスも修理をお受けいたしております。

★撮影フィルムはすべてMACO COLOR 200