今月の一枚

2013年11月 アイレス35-V / Hコーラル45mmF1.9 & Wコーラル35mmF3.2

レンズをとりはずしたところ。マウントは独自のもの。

セレン光電池式単独露出計を内蔵するなど多機能だが、操作系はきれいにまとまっている。

底部はすっきりしている。

フィルム室。

Wコーラル35mmF3.2レンズ。

外箱。

アイレスのマーク入りシリカゲルとJCIIの検査合格証。

作例1 F8 1/200

作例2 F1.9開放 1/200

作例3 F8 1/200

作例4 F8 1/200

作例5 F8 1/200

解説

アイレス写真機製作所は、1950年代二眼レフカメラと35mmレンズシャッターカメラの分野で大きな存在感のあった有名なカメラメーカーでした。すでにここで「アイレスフレックスZ」(2010年1月)をご紹介したときに、アイレス写真機製作所についても簡単にご説明いたしましたので、そちらをご参照ください。そらに詳しい解説は「世界ヴィンテージ・カメラ大全」をご覧いただければ幸いです。

さてアイレス35-Vは、その「世界ヴィンテージ・カメラ大全」に収録されていますが、今回委託品としてたいへんすばらしい状態のアイレス35-Vをお預かりいたしましたので、作例も交えて改めてご紹介したいと思います。

アイレス写真機製作所が最初に開発した35mm判レンズシャッターカメラは、1954年6月のアイレス35でした。その後ライカM3の登場後まもない1954年10月には、採光式ブライトフレームを備えた一眼式連動距離計内蔵のアイレス35Ⅱ型を世に送って、世間を驚かせました。1955年9月には国産レンズシャッター式カメラとして初めてガウス型の大口径レンズ、コーラル45mmF2を備えたアイレスⅢ型を発売しています。そして開発を重ねて1958年9月にレンズ交換式の最高級レンズシャッター式カメラ、アイレス35Vを発売したのです。

アイレス35-Vはアイレス最初にして最後の本格的なレンズ交換式カメラでした。アイレス35Ⅲbまでのボディ脇が角ばった八角形の伝統的なデザインを採用しています。交換レンズは全部で4種類、標準レンズはSコーラル45mmF1.5とHコーラル45mmF1.9、広角レンズはWコーラル35mmF3.2、望遠レンズはTコーラル100mmF3.5でした。Sコーラル45mmF1.5はアイレス全機種中でもっとも明るいレンズで、また当時は特筆すべき明るさと言え、35mm判のレンズシャッター式カメラではヤシカリンクス14やマミヤデラックスなどと並び、世界的に見ても有数の高性能レンズでした。またテレコーラル100mmF3.5レンズは、巨大と言うべき大きさに驚かされます。

ファインダーは一眼式で、複数の焦点距離に対応したブライトフレームが設けられています。二重像式のピント合わせも容易です。カメラ全体の使い勝手は良好です。ただ、重量は45mmF1.5レンズ付きでは約900gもありました。このため大きく重いという印象は否めません。

F1.5の大口径レンズを搭載するためにセイコーシャMX0番シャッターを採用し、またセレン光電池式露出計をアイレス35シリーズで初めて内蔵するなど、このカメラは各部にお金がかかったカメラと言えます。Sコーラル45mmF1.5レンズ付きの価格が当時38,000円と、コンパクトカメラとしては高価なカメラでした。アイレスの威信をかけた35-Vは、しかし販売は不振で、販売期間も短かいものでした。この頃からアイレス写真機製作所の業績は悪化したと言われています。そして1960年7月についに資金繰りに窮して倒産してしまったのでした。

なお、弊社ではこれらのアイレス35mmカメラの整備が可能ですので、どうぞ遠慮なくご相談ください。

★撮影フィルムはすべてフジ 業務用フィルム(ISO100)