今月の一枚

2014年2月 アグファ・カラートⅣ型 ゾラゴン50mmF2

巻き上げはレバー式だが、手前に引く。

しっかりしたたすきの下に蛇腹が見える。

格納したところ。コンパクトで携帯に便利。

フィルムのパーフォレーションを、フィルムレール下のギアにかませて、ロックすることを忘れないようにする。

フィルムの圧板は、複雑な構造になっている。

ゾラゴン50mmF2レンズ。

作例1 おもしろいバス発見 F8 1/300

作例2 隅田川公園脇歩道 F8 1/300

作例3 いつみてもユニーク F8 1/300

作例4 もう見飽きた? F8 1/300

作例5 水上バス乗り場 F8 1/300

作例6 ちょっとぼかしてみました F2 1/100

解説

今月は中古カメラ市で復活したアグファのフィルムが売られていたのを目にしたので、アグファのコンパクトカメラとして良く写るカラートⅣ型を取り上げてみました。私は昔からこのカメラが大好きで、かつて早川通信の第二号でアグファのカメラをご紹介したときに、このカラートⅣ型については詳しく書きました。今でも参考になると思いますので、全文を転載しておきます。

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カラート4型(Agfa Karat IV) レンズの実力の高い、携帯に便利な折畳式35mmカメラ  カラートシリーズは、日本では馴染みが薄いアグファのカメラの中では比較的良く知られている、前板部を折り畳んでコンパクトに格納できる35mmスプリングカメラである。

カラート4型はシリーズの最終型で、デザインが整理されて美しく、性能的にも他社の同クラスのカメラに遜色なく、良くできたカメラである。特にレンズ性能がすばらしく、アグファのカメラの魅力を十分味わうことができる。

1.カラート4型(Karat IV)の概要

カラート4型は、1956年に登場した。それまでのモデルでは上下二分割される距離計が特徴となっていたが、4型では連動距離計は一般的な二重像合致方式に改められた。もちろん一眼式であり、ファインダーも兼用するが視野枠はなく、全体が50mm相当になっている。ファインダーは明るく、視野が薄くマゼンタがかっているのに対して、二重像部はグリーンに色づけされているため補色の関係となり鮮明で合わせやすい。

シャッターユニットとレンズは前板部に固定され、前板はたすきでボディにとりつけられていて折り畳みができる。ライバルと言えるコダックのレチナシリーズは、折り畳むと蓋がかぶさって前板部を保護したのに対し、カラートはむき出しのままであり、したがって携帯にはレンズキャップが必須である。レンズのヘリコイドは全群繰り出しの直進式で、最短撮影距離は1mである。
シャッターはそれまでのカラート36のコンパー系から、プロンターSVSに変更された。ややコストを節約したのであろう。シャッターの系列は、この時代の標準であった大陸系で、つまり1、1/2,1/5,1/10・・・という系列となっている。ただ、最高速度が1/300というのは、高感度フィルム時代の現代では撮影時につらい時があるのは否めない。

ボディは堅牢な構造になっている。前板部を支えるたすきは上下にX字状にあり強固で、ボディも裏蓋もダイキャストで、特に裏蓋には強度保持のリブが設けられている。ボディサイズは、実測では横131mmx高さ75mmx奥行き72mmで収納時には51mmとなる。前板部は縦54x横58mmである。重量は50mmF2ゾラゴン付きで650g。巻き上げは独特のレバー式が採用されていてセルフコッキンングとなり、巻き上げとシャッターチャージが同時になされる。

レンズは自社製とされるゾラゴン(Solagon)50mmF2付とゾリナー(Solinar)50mmF2.8付の2種類のモデルが存在し、どちらのレンズもコーティングされている。絞りバネは10枚で、どの位置でもほとんど円形を示す。大口径のゾラゴンであるが、天体写真を撮影してみて、開放から星像がシャープで、画面の最周辺部でもほぼ点像を示したのに驚かされた。ネガ上では画面の四隅2-3mmくらいの部分でコマの乱れが認められるが、F2開放でここまで諸収差が少ないレンズは珍しい。ライツのズミクロン50mmF2をテストした時とほぼ同等である。ただ、局所的にわずかに星像が甘くなる部分があり、フィルムの平面性保持に問題があるのではないかと思う。このカメラの圧板は二重構造で、さすがフィムメーカーらしく平面性保持に相当腐心しているようなのだが、現在のカメラのようなトンネル方式ではなく圧板がフィルムゲートに直接フィルムを押しつける方式であるため、圧板自体の平面性が影響を与えているのではないかと推測している。ただし天体写真はこういう問題がシビアにわかりすぎるだけで、実写ではまず問題にはならない。実際に風景や人物を撮影しても、とてもシャープで発色も良く、今から40年も前のレンズでここまでよく写ることには感心させられた。もちろん最短1mでの描写も崩れることがない。ボケもなめらかでかたくならず、色も階調も良く出るすばらしいレンズである。

テッサータイプのゾリナーも、よく写る。このレンズも開放からシャープで、レンズ構成枚数が少ないテッサータイプの特徴というべきか、コントラストが高くよりはっきりとした描写をする。むしろ絞った時には、ゾラゴンよりも描写性能は上だと指摘されたこともある。ゾラゴンとゾリナー、どちらでも写りは満足できると思うが、大口径ゾラゴン50mmF2付のカメラは他にスーパージレッテ(Super Silette)しかない。

なお、カラートシリーズのカメラは、すべてボディにつり環がないため、携帯には専用ケースが必要である。したがって、ケース付きのカメラを探すことをお勧めしたい。

2.カラート4型の使い方

このカメラの使い方は、レンズシャッター式距離計連動カメラを使ったことのある人には、特に難しいところはない。まずシャッターを切るためには、ボディ前板を引き出す。引き出すと言っても、このカメラの場合強力なスプリングによって、前板正面右側のボディにあるレバーを押すと、ボンと前板部が勢い良く飛び出してくる。おもしろがって、しまったり飛び出させたりをあまり繰り返すと、ボディにゆがみなどの悪影響が生じるおそれがあるので、必ず手をそえて飛び出してくるのを受け止めて、固定位置に誘導するようにしたい。最後はロックがかかったことを確認する。このカメラの前板部は、きちんと固定されると、押してもびくともしない。

前板部にあるシャッターダイヤル、絞りを撮影条件に合わせて設定する。絞りノブは正面左下方に位置し、絞り指針は正面上に位置している。ピントは正面右にあるノブを回転することで、ボディ内部の距離計と連動する。カメラを構えると左手中指あるいは薬指が、この距離設定ノブに自然と届くはずである。距離情報は、前板部最上部の距離指標と被写界深度目盛りで確認できる。
正面右上には、フラッシュ撮影のためのシンクロ接点が正面向きに出ている。シンクロはX接点とM接点の切り替えが可能で、接点のすぐ右下に切り替えレバーがある。一般のエレクトロニック・フラッシュ撮影の場合は、X接点にする。この場合、レンズシャッターなので、Bから1/300までどの位置でも同調する。切り替えレバーのV位置は、セルフタイマーを使用する場合にセットする。セルフタイマーは、約10秒で切れる。使用したらXかMの位置に戻しておかないと、次の撮影もまたセルフタイマーになってしまう。

巻き上げとシャッターチャージは、ボディ正面左肩に外に飛び出したノブを、裏面側に引くことで行う。カメラをかまえた状態では、右手人差し指で手前に引くことになる。シャッターの速度設定は、できるだけシャッターをチャージする前に行うように心がけたい。レンズシャッターの場合、シャッターチャージした状態でシャッター速度を変更すると、内部の機構に負荷がかかり、故障の原因となる場合があるからである。

続いて、フィルムの装てんである。ボディ裏面からみて左側面に裏蓋開放ノブがある。下側にこれを引き出すと、裏蓋が右側に開く。次がこのカメラを扱う上でもっとも大事な点になるので、良く注意して欲しい。フィルムゲート下側に、フィルム送りと連動してコマ数計を進めるスプロケットギアが出ている。これにフィルムを押さえつけるための小さな圧板が覆いかぶさっているので、これを手前に引いてあけておき、フィルムを通せるようにしておく。これを忘れてこのスプロケットにフィルムが噛まない状態で裏蓋を閉めてしまうと、巻き上げができなくなる。

パトローネは左側のフィルム室にいれるが、このとき巻き戻しノブを上に2段引き上げる。パトローネを入れて巻き戻しノブを元通りにおろしたら、先に述べたようにフィルムをスプロケットギアにはめて圧板で固定する。フィルムの先を右側の巻き上げ軸の中のスリットに入れて、一度シャッターを切って巻き上げ、きちんとフィルムが巻き上がることを確認する。なお、このカメラは順巻き方向でフィルムを巻き上げていく。

きちんと巻きあがることを確認したら、裏蓋を閉める。次にボディ右上部にあるフィルムカウンターをセットする。このカウンターは加算式なので、親指の腹などで時計方向にカウンターを回すとAというスタート指標がでるので、ここにあわせてから3回シャッターを切って巻き上げるとカウンターは1にセットされる。これで撮影準備完了である。

撮影が終了したら、巻き戻しをする。ボディ底に巻き戻しボタンがあるので、これをしっかり押したまま、巻き戻しノブをまわす。ノブは1段引き上げると操作しやすい。

最後に前板部を収納する際には、ボディのリリースレバーを押してロックを解除した上で、前板の左下すみなどを押して収納する。撮影が終わったらレンズキャップを必ずかぶせて、レンズを保護する。特にゾラゴン50mmF2は前玉が突出しているので、傷をつけないように注意してほしい。


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今回、久々にカラートⅣ型を取り出してみましたが、写真をとても楽しく撮ることができました。カメラのフィルム送りに少し問題があって、コマが一部重なってしまったのですが、そうした失敗もなんか妙に楽しいのです。フィルムカメラでの撮影はおもしろいと改めて思った次第です。

なおアグファ・カラートシリーズのメンテナンスについては、弊社でも多数の実績がありますので遠慮無くご相談ください。

★撮影フィルムはすべてフジ 業務用フィルム(ISO100)