今月の一枚

2010年11月 ステレオターC 35mmF3.5レンズ

レンズ単体。

マウント側からレンズをみたところ。左右の画像が干渉しないように遮光板が備わっている。

風景など遠方の被写体を撮影するときには、レンズの前にステレオプリズムを装着する。バヨネット式でワンタッチだ。

横から見たところ。

接写用のプロクサー(50cm用)と近接撮影用距離計コンタメーターを装着したところ。手前は20cm用と30cm用のプロクサーレンズ。

専用ケースにレンズ本体および付属品一式を収納したところ。

美麗な専用ケース。

作例1 サルビア F11 1/250

作例2 ポスト F11 1/250

作例3 東京スカイツリー F11 1/250

作例4 吾妻橋交差点 F11 1/250

作例5 菊花展 F11 1/250

作例6 菊 F11 1/250 50cm撮影用プロクサー併用

 

解説

今年(2013年)は映像の分野では、3Dすなわち立体画像が流行しました。火付け役となったのは3D映画で、それがTV、PC、デジタルカメラなどに波及しました。この3Dブームで初めて画像の立体視に触れ、比較的近年の技術のように思っておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はステレオ写真の歴史は大変に古いものです。写真技術が発明されたのは1839年ダゲレオタイプの発明によるものとされていますが、その後まもなく立体写真を撮影するためのステレオカメラが登場しています。

ステレオ写真は過去何度も世界的な流行があり、おもしろいことにほぼ30年周期です。最初が1860年頃、次は1890年頃、1920年頃、1950年頃と続き、1980年頃には世界的なブームにはなりませんでしたが、レンチキュラー方式というビューワーや眼鏡不要で鑑賞できるステレオ写真を撮影するニムスロ3Dカメラが1982年にアメリカで発売され、かなり売れたそうです。そして今年2010年フィルムカメラからは離れましたが、デジタル画像技術の新しい潮流として映画、TV、デジタルカメラなどに3D技術の導入がブームとなっているわけで、30年周期説を実証したようです。

さて、ステレオ写真は立体写真、3Dフォトなどとも呼ばれ、平面的にしか見えない写真を特殊な撮影方法により立体視可能な写真を撮影し、立体的に被写体を鑑賞しようとするものです。立体視可能な写真を得るためには、撮影対象に対して2枚の写真を視差が生じるように位置を変えて撮影することで可能となります。これをステレオ写真の撮影と呼ぶわけですが、様々な方法が実用化されてきました。

もっとも簡単な撮影方法は、1台のカメラで被写体に対して左右異なる位置から2枚の写真を撮影し、これを私たちの左右の目で立体視すれば良いのです。ただし実際にやってみると、カメラの水平位置やレンズの光軸を正確に合わせる必要があるなど、意外と面倒なものです。このためステレオ写真撮影専用のカメラや、アダプター、交換レンズなどが過去多数作られてきました。現在もペンタックスからステレオアダプターDセット(3Dイメージビュワー付属)が供給されていて、同社の直販サイトで購入可能です。もちろん原理的に同社のカメラ以外でも使用可能です。またロレオからも同様のステレオアダプターが販売されていますし、ステレオ撮影用カメラも発売されています。 なお来年3月15日発売のアナログ誌(音元出版)で、クラシックカメラの世界のステレオカメラを紹介いたしますので、書店で見かけたら手にとってみてください。

さて、今回ご紹介するのは、ドイツのツァイス・イコン社の名機コンタックス用にカール・ツァイス社が供給したステレオ撮影用交換レンズ、ステレオターC35mmF3.5レンズです。ただし装着できるのは戦後のIIa、IIIaだけです。同じ交換レンズ方式のステレオ撮影レンズとしては、ライカ用のステマーレンズ、ニコンSシリーズカメラ用のステレオ・ニッコールレンズも有名ですが、このステレオターCレンズには、専用の近接撮影用プロクサーレンズとコンタメーターが付属していて、最短20cmの接写ができることが大きな特徴となっています。

このレンズはとても複雑な構造をしていて、メカ好きの方なら一発で気に入ること間違いなしです。左右に2つ並んでいるレンズは3群3枚構成で、レンズ間の距離は18mmです。レンズはボディの外側のバヨネットマウントに取り付けます。ボディ側の距離計は使用せず、無限遠位置に固定しておきます。レンズに独立したドレーカイルプリズムが備わっていて、これを回転させればファインダーの二重像が移動するとともにレンズが前後し、ピント合わせができるようになっています。このシステムが非常に軽快に作動するため、たいへん使いやすくなっています。

レンズの距離指標には1つの赤点と2つの赤点が打ってありますが、これは専用ファインダーのパララックス補正指標に対応しています。また2.5mのところが赤字になっていますが、それより遠くを撮影する場合にはレンズの前にステレオプリズムを装着して立体感を強調するようにという指示です。プロクサーを使用する場合には、レンズのピント位置を最短位置に固定し、続いて撮影した距離に対応したプロクサーをレンズの前に装着、アクセサリーシューに装着したコンタメーターも対応した距離に設定し、コンタメーターの二重像が合致するところでシャッターを切れば、ピントが正確にあった接写ができるという仕組みです。文章で説明すると複雑ですが、実際に操作してみると、とても良くできていることに感心します。

撮影された画像は、作例写真のようにライカ判(24x36mm)の中に左右のレンズでされた画像が2枚並びます。しかしこのままでは立体視できません。左右が逆に写っているからです。プリントアウトして立体視する場合には、左右を入れ替えてください。リバーサルフィルムを使用して撮影した場合には、スライドマウントに入れて専用ビューワーで観察すれば、ビューワーが左右の像を入れ替えてくれるのでそのまま観察できます。

ステレオ写真の撮影ではできるだけ絞って被写界深度を深くし、ピントの合う範囲を広くすることと、カメラの水平をできるだけ正確にだすこと、手ぶれをしないように撮影することが、立体視したときにきれいなイメージを見るためのポイントです。

なお、弊社ではレンジファインダー式コンタックスカメラのすべての型と、そのレンズのオーバーホールや修理が可能です。多数の実績がございますので、遠慮なくご相談ください。お問い合わせお待ちいたしております。

★作例写真はすべてContaxIIIaで撮影。フィルムはDNP Centuria 100。