今月の一枚

2011年5月 モスクワ5型 インダスター24 105mmF3.5

2011年5月 モスクワ5型 インダスター24 105mmF3.5

格納したところ。

ボディ上部から。

カメラ内部。

前板部はスーパーイコンタによく似ている。

ボディ上部を分解したところ。

シャッターを分解したところ。

作例1 歓迎光臨 F8 1/250

作例2 アカメモチ  F11 1/100

作例3 中村屋本店  F11 1/100

作例4 桜が散った後の桜並木  F11 1/100

作例5 完成間近の東京スカイツリー(2011/4月中旬) F11 1/250

 

解説

最近ソビエト連邦時代のロシアやウクライナで作られたカメラやレンズの整備依頼が増えています。今年になってからだけでもゾルキー1型、キエフ2型、レニングラード、インダスター26M、そして今回ご紹介するモスクワ5型と多彩です。昔なら高い修理代を払うより、買い直した方が安いと言われて、ほとんど修理はありませんでした。しかし最近ではクラシックカメラ店の棚に旧ソ連製のカメラやレンズの姿を見かけることは珍しくなってしまいました。ですから綺麗な個体をお持ちのお客様からの整備依頼が来るようなってきたのだと思います。整備してみると特にゾルキーやフェドなどのライカコピー機は意外と操作感も良くなりますし、たいていのカメラやレンズは撮影した結果が期待より良いので、特にレンズの優秀なことに感心されるお客様が多いようです。

さて今回取り上げたモスクワ5型は、ドイツのツァイス・イコン社製のスーパーイコンタに良く似たカメラです。第二次世界大戦後ドイツのツァイス・イコン社の生産設備を接収したソ連は、1946年にツァイス・イコン社の6x9cm判スプリングカメラの名機として著名なイコンタ(521/21)そっくりのカメラの製造を開始します。これがモスクワ1型です。シャッターはコンパーあるいはそのコピー、レンズはインダスター23 110mmF4.5でした。製造したのはモスクワ近郊のクラスノゴルスク(Krasnogorsk)にあったKMZ工場でした。

1947年にはドレーカイル式連動距離計を備えたスーパーイコンタ(530/15)そっくりのモスクワ2型が登場します。シャッターはソ連製のモーメント1(Moment-1)型、レンズはインダスター23です。1950年には本家ツァイス・イコンにもない6.5x9cm判の乾板/シートフィルム専用のモスクワ3型が登場します。私は残念ながら実物を見たことがありませんが、背面にはピントグラスが備わっているそうです。 1955年にはモスクワは4型になります。モスクワ2型とほとんど同じですが、背面の赤窓が2箇所になっていて6x9cm判と6x6cm判のデュアルフォーマットになりました。

1956年にはダイキャストボディとなった新型のモスクワ5型が登場しました。ここで初めてボディ部分については、スーパーイコンタとは異なる形態に進化したと言えます。この頃には本家のツァイス・イコン社のイコンタ/スーパーイコンタシリーズは製造が中止されてしまいました。モスクワ5型はレンズがインダスター24 105mmF3.5に変わりました。シャッターはモーメント24S型です。構図を決めるファインダーがボディに内蔵され、デュアルフォーマットに対応してマスクで視野を切り替えることができます。ドレーカイル式連動距離計は変化ありません。モスクワはキリル文字ではMOCKBAと綴りますが、ボディ上部に大きく刻印されています。このモスクワ5型は、シリーズ中もっとも製造台数が多く20万台以上も生産されたそうです。

さて、今回弊社で整備したモスクワ5型で撮影してみました。修理をご依頼いただいた方によれば、近距離で撮影すると画面周辺部で像が流れるという指摘をいただいておりましたが、距離計の連動精度に狂いがあったことが判明したため再調整いたました。インダスターは3群4枚のテッサータイプと考えられるレンズで、撮影結果は本家のテッサーと比べて大きく劣るようなものではなく、十分シャープな写真がとれるカメラではないでしょうか。

なお冒頭にも書きましたが、弊社では旧ソ連製のカメラやレンズについて整備をお受けいたしております。ただしカメラによっては品質や機構上の問題から、通常の保証を付与できない場合もございますので、あらかじめご承知おきください。まずは遠慮なくご相談ください。

作例写真 フィルムはすべてフジ160S PRO