今月の一枚

2009年6月 レチナ2型 エクター47mmF2

折り畳んだところ。無駄のないコンパクトな形状。

背面から。

背面から。

エクター47mmF2レンズ。

同じエクター47mmレンズが備わったカードン(Kardon)軍用モデル。

ファインダーの分解整備。

作例1  店先 F2開放 1/100 コダックSG400

作例2 クレマチス F2 1/500 コダックSG400

作例3 ガクアジサイ F11 1/200 コダックSG400

作例4 ご出勤 F11 1/200 コダックSG400

作例4 準備完了 F11 1/200 コダックSG400

 

解説

レチナは35mm判蛇腹折り畳み式カメラを代表する世界的名機です。戦前の1934年に登場してから戦後1960年代まで、ドイツの高品質な小型カメラの代表機でもありました。日本のクラシックカメラマーケットでもたいへん人気が高く、弊社の修理実績をご覧いただければおわかりいただけるように、ライカとローライフレックスについで修理のご依頼がたいへん多いカメラなのです。今まで「この今月の一枚」で取り上げなかったことが不思議ではあります。私の大好きなカメラの一つなのですが。

さて、レチナを製造したのはドイツ・コダック社(Kodak A.G.)でした。この会社は1931年米国のイーストマン・コダック社(Eastman Kodak Co.)とDr.オーギュスト・ナーゲルカメラ工場(Dr.August Nagel Camerawerk)がほぼ対等の条件で合併したことで成立しました。ナーゲルカメラ工場の創立者、オーギュスト・ナーゲル博士(Dr.August Nagel:1882-1943)は、元々ドイツ4大カメラメーカーの一つ、コンテッサ・ネッテル社の創立者の一人でした。1926年4大カメラメーカーの合併により設立されたツァイス・イコン社では技術担当理事となりましたが、独立心旺盛なナーゲル博士は1928年にツァイス・イコン社を出てシュツットガルトにDr.オーギュスト・ナーゲルカメラ工場を設立し、自らの構想による個性的なカメラの製造を開始したのです。

しかしすぐに合併が行われたのは、当時のドイツが世界大恐慌の影響を深刻に受け、ナーゲルカメラ工場も経営は苦しく外部からの支援を必要としたからです。これに対してイーストマン・コダック社は高性能カメラの開発拠点をドイツに求めていて、両者の思惑が一致したのでした。しかし会社の規模としてははるかに巨大であった米国コダック社は、ナーゲル博士のそれまでの功績を高く評価し、対等のパートナーとして処遇、新会社の社長はナーゲル博士とし、ドイツ・コダック社における新型カメラの開発も博士主導で行われたのでした。

そしてナーゲル博士の素晴らしい才能が発揮された新型カメラが、1934年末についに登場しました。それがレチナでした。レチナはラテン語で「網膜」という意味ですが、カメラは非常に機能的な上にデザインが洗練されて美しく、そしてよく写ることから大成功を収めたのです。またレチナの登場と同時にイーストマン・コダック社はパトローネ方式を開発、これによってフィルムを専用カートリッジに詰め替えることなく、フィルムを購入してすぐに撮影が可能となったのです。レチナは最初にパトローネが使用できるカメラとして35mm判フィルムの普及に多大な貢献をしたのでした。ナーゲル博士は第二次世界大戦中の1943年に亡くなりましたが、後を継いだ一族のヘルムート・ナーゲルが戦後レチナシリーズをさらに大いに発展させました。

レチナは1934年に登場した初代の117型から、50種類以上のモデルが存在すると言われています。どのモデルも整備さえきちんとされていれば、現在も素晴らしい写真を撮影することが可能です。初代117から現在のパトローネに入った35mmフィルムをそのまま使用できるので、不自由がないのです。

今回ご紹介したレチナⅡ型は1946-1949にかけて製造されたモデル011で、これは4代目にあたり戦後最初のレチナⅡ型です。レンズはシュナイダー社のクセノン50mmF2とローデンシュトック社のヘリゴン50mmF2のほかに、コダック社オリジナルのエクター47mmF2が装着されている個体があります。このレンズは米国のライカコピー機として有名な、カードンに装着されているレンズと同じで、特にコレクターが珍重しています。エクターは開放付近の柔らかな独特の描写が、非常に魅力的に思えます。少し絞ると非常にシャープな描写になります。

レチナの整備ですが、距離計のないモデルは18,000円(税別、以下同)、連動距離計が備わったモデルは30,000円です。距離計のハーフミラーの交換が必要な場合、金蒸着のミラーのほうが鮮明に見える場合には部品代として3,000円追加となります。通常のハーフミラーで問題がない場合、追加料金は不要です。また後期のモデルで、巻き上げ部品が損傷している場合には部品代が18,000円追加となります。蛇腹の補修あるいは交換が必要な場合、別途お見積もりいたします。なおレチナⅢsや一眼レフタイプのレチナフレックスは、修理料金が別体系ですので、どうぞ遠慮なくお問い合わせください。