今月の一枚

2009年5月 コンタフレックス(二眼レフ) ゾナー50mmF1.5

格納したところ。キャップは高価。

背面から。

ビューファインダーの視野。枠線は内側が135mm、外側が85mm。

フィルム室と金属鎧戸式シャッター。

ビオゴン35mmF2.8レンズを装着したところ。100万円を越えてしまう。

外装をはがしたところ。

各部を分解したところ。

シャッターリボンの交換。

作例1  季節 1/500 F11 コダックSG400 シャープ。

作例2 店先 1/500 F11 コダックSG400 立体感がよく出ている。

作例3 てっせん   1/500 F1.5開放 コダックSG400 絞り開放でもしっかりした写り。

作例4伝法院通り  1/500 F11 コダックSG400  ノンコートのレンズなのに発色が鮮明。

 

解説

第二次世界大戦前、世界最大のカメラメーカーとして様々なフォーマットのカメラを製造したドイツのツァイス・イコン(Zeiss Ikon)社は、1935年に世界最初の電気式露出計(セレン光電池式)を内蔵し、これまた世界初の35mm判二眼レフ型式として登場したコンタフレックスを発売しました。当時日本でのこのカメラの価格はおよそ2,500円だったそうで、それだけのお金があれば東京市の中心域に庭付き一戸建て住宅を購入できたといいます。現在の価値では1億円前後でしょうか。ものの本によれば古今東西でもっとも高価で豪華なカメラであったということです。

なお、ツァイス・イコン社は、戦後1953年に登場した35mm判レンズシャッター式一眼レフカメラへコンタフレックスの名前を再度与えたため、混乱しやすいので注意が必要です。日本では二眼レフのコンタフレックスは、その形状から「だるま」という呼び方をされることが多いのですが、これは混乱を避けるためでもあるようです。

さて、コンタフレックスはその独特なたいへん豪華な印象の外観デザインが魅力的で、ツァイス・イコン社で初めてクロームメッキを外観部品に多用したカメラでもあります。もちろんカメラとしての性能も素晴らしいものです。シャッター機構は1932年にツァイス・イコン社の総力を結集して生み出されたと言われるコンタックスと同じ金属鎧戸縦走り式で、1/2秒~1/1000秒をカバーします。セルフタイマーも内蔵しています。フィルムは横方向に走行しますが、巻き上げノブと巻き戻しノブはボディ側面に縦方向に装備されていて、複雑なギアで力を伝達してフィルム送りと巻き戻しを行います。

交換レンズは8種類用意されましたが、マウントは独自のものでコンタックスと互換性はありません。ビューレンズ脇のピントノブを動かすと、レンズマウントが同時に回転し、その回転角を焦点距離に対応した前後のピント調整に変換するためのヘリコイドをレンズマウントに内蔵するという複雑な構造のものです。

広角レンズはビオゴン35mmF2.8とオルソメター35mmF4、標準レンズはゾナー50mmF1.5、ゾナー50mmF2、テッサー50mmF2.8、望遠レンズはゾナー135mmF4、ゾナー85mmF2、トリオター85mmF4ですが、私はとオルソメター35mmF4とトリオター85mmF4はいままで手にしたことがありません。レンズはコンタックス用と同じものですが、コンタフレックス用はビューレンズとのピント合致精度を担保するために、特別に選別されたレンズであるという話を聞いたことがあります。実際コンタフレックスを撮影に愛用している方々の意見では、描写性能が特に良いということで、今回の作例を撮影して感じたのですがたしかにゾナー50mmF1.5の写りは抜群に思えます。

ボディに固定されたビューレンズ(上側)の焦点距離は80mmで、ピント合わせの精度を高めています。スクリーンは全体で50mm、中に85mmと135mmの視野枠が書かれています。35mmレンズを使用するときには、外付けのファインダーを併用する必要があります。

今回コンタフレックスを取り上げたのは、この冬から春にかけて、この超豪華型カメラの修理依頼が3台たてつづけにあり、今回撮影に使用したカメラはその中の一台で整備後の試写を兼ねたものです。弊社でのこのカメラのオーバーホール料金は160,000(税別)です。今回は3台とも弊社社長の早田が処置いたしましたが、ていねいに外側の革をはがし、内部機構をすべて露出させて、シャッターリボンの交換や各部の洗浄、組み立て、動作調整を行ってまいります。また腐食したアルバダは再蒸着し、レンズの表面が傷の場合には再研磨など、必要な処置をすべて行います。このため整備の時間も通常より5割程度長くいただいております。ただし露出計は作動しても、実用にはなりません。

なお、最近未熟な修理でコンタフレックスを壊されてしまったという相談をいただきますが、部品が破損している場合修理不能になりますし、外側の革を無理にはがされた場合など、外観を修復してもきれいにはなりません。きれいな状態のカメラでは、現在40万~50万円程度で取引されていますが、状態が悪い、あるいは不動ですと極端に価値が下がってしまいますので、ご購入の際には十分注意が必要です。またそうしたカメラの修理は規定金額以上になってしまいます。

また交換レンズは、特に広角系は本体以上に高価(50万円以上)ですし、標準レンズを装着したときに上下のレンズをカバーする金属製キャップやフードはそれだけで5万円以上するなど、アクセサリー類もきわめて高価です。お持ちの方は紛失したりしないようにご注意ください。

なお、35mmフィルム専用設計の二眼レフカメラはカメラ史上ではたいへん種類が少なく、コレクター垂涎のカメラが多くを占めます。海外ではコンタフレックス以外には、ラッキーフレックス(イタリア)、フレキシレッテ&アグファレフレックスとオプチマフレックス(ドイツ)、ボルシーC&C22(アメリカ)、国産ではヤルーフレックス、トヨカフレックス35(横二眼)、サモカフレックス35だけです。しかしこれをすべて揃えようとしても、数百万円を用意しても買うチャンスに出会えないというヤルーフレックスが壁となって立ちふさがるようです。もちろん、コンタフレックスだけでも十分に「お宝」といえると思います。