今月の一枚

2010年4月 ノリタール17mmF4 ニコンFマウント用

オリジナルキャップ。

マウント部。

作例1 ボタン F8 1/500

作例2 緊急車両通過   F5.6 1/250

作例3 場所取り F5.6 1/500

作例4 水上バス仮設乗り場

作例5 桜  F8 1/500

作例6 4月3日高さ338m F8 1/500

作例7 壁面緑化   F8 1/500

作例8  F5.6 1/250 逆光時ゴーストがはっきり現れるが、むしろ画面はすっきりしている

作例9  F8 1/500 油断すると画面が極端に歪む

 

解説

ノリタール(Noritar)というレンズ名で、ああ、あのノリタ光学とわかる方は相当なレンズマニアではないでしょうか。ノリタ光学は1951年に車田(のりた)利夫氏が創業した光学メーカーで、最初は一眼レフ用ペンタプリズムの量産化に成功して事業が発展したそうです。カメラ史の中では、1971年にノリタ66(Norita66)という6x6cm判システム一眼レフカメラを発売したことで歴史に名を留めることになりました。。

ノリタ66はフォーカルプレーンシャッター式の一眼レフカメラで、35mm一眼レフをそのまま大きくしたような姿をしています。ペンタックス67によく似た雰囲気がありました。カメラの仕様は高級で40mm~400mmまで7本の交換レンズが用意され、ファインダーも交換できました。

実はこのノリタ66は、武蔵野光機が開発したリトレック6×6を改良したものでした。武蔵野光機はプロ用の6x9cm判一眼レフ、リトレックSPなどで知られたカメラメーカーでしたが、1967年に野心的な6x6cm判一眼レフの試作機を発表し、その後輸出モデルとしてワーナー66という名前で少量の生産が行われました。しかし1969年には倒産してしまったのです。このリトレック6×6のレンズやプリズムなどの光学部品を製造していたのがノリタ光学であった関係で、武蔵野光機の生産設備や人員を引き取って生産を再開したモデルがノリタ66ということです。

ノリタ66には当時6x6cm判用レンズとして世界一の明るさを誇ったノリタール80mmF2など個性的レンズが揃っていました。しかし販売はふるわず、1976年に生産中止となってしまいました。同時にカメラ事業部も廃止となって、民生用のカメラ・レンズ事業から撤退してしまったのでした。

ノリタ光学株式会社はその後産業用光学レンズ製造などに活路を見いだし、近年はプロジェクター用のハイブリッドレンズなどの製造を行っていましたが、平成12年に株式会社エンプラスの完全子会社となり、翌13年には株式会社エンプラスオプティクスに社名変更されたそうです。

前書きが長くなってしまいましたが、今回ご紹介するのはノリタ光学が1970年代初頭に35mm一眼レフ用として開発した、当時としては野心的な超広角レンズ、ノリタール17mmF4レンズです。同時にノリタ光学は、35mm判用135mm級交換レンズとしては恐らく世界一の明るさを誇るノリタール135mmF1.4も発売しました。この驚異的な性能の135mmレンズについては写真工業誌2007年7月号でご紹介いたしましたので、ぜひご覧ください。

ノリタール17mmF4は、マウント面から先端まで57mm、フィルター径72mm、最大径75mmという超広角レンズにしてはコンパクトな外観で、その雰囲気はニコン初のミラーアップなしで使用可能な超広角レンズ、ニッコールUD20mmF3.5によく似ています。この時代ニッコールには18mmF4や15mmF5.6、さらには当時世界一の超広角13mmF5.6までラインアップされていたわけですが、直接的なライバルと言えるニッコール18mmF4が最大径89mmもありましたから、そのコンパクトさが際立ちます。

そしてその描写性能は、かなりハイレベルのものではないでしょうか。絞り開放から画面中心部はきわだって高画質で、周辺部も右端部にやや流れが認められますが、左端部はわずかに甘くなる程度です。さらに歪曲収差がかなり少ない印象です。また逆光にも強いようです。なお右端部の流れについてはいくら絞っても改善せず、弊社で分解整備した後も解消せず、残念ながら製造段階での問題と言えます。もし左端部と同じレベルに揃っていたら、素晴らしい性能と言えるものではないかと思います。

今回撮影はニコンD3で行ったわけですが、私の手元には100本以上のニッコールレンズをニコンD3で同一条件下で撮影したリファレンスライブラリがあります。このノリタール17mmレンズのF4、F5.6、F8の撮影画像と比較して、非球面レンズを採用しているAFニッコール18mmF2.8はF8まで絞っても左右周辺部の画質が及びません。Aiニッコール18mmF3.5やAF17-35mmF2.8D、AF18-35mmF3.5-4.5は、ノリタールの左側半分の画質と比較すると同等からわずかにいい程度。さすがに最新のAF-S 14-24mmF2.8Gは絞り開放から画面全体に高画質で優秀ですが、最近のレンズと40年も前のレンズを比較してこの結果というのは、どちらを誉めるべきか考え込んでしまいました。

ということで、このノリタール17mmレンズは、レンズマニアの方ならぜひ手元に欲しい1本ではないでしょうか。残念ながら大変に稀少なレンズで、今回ご紹介したレンズも 製造番号から推定して96本目ということでしょうか。なおマウントは交換式ではなく、ニコンFマウントやキヤノンFDマウントなど専用になっていますので、購入時には注意が必要です。またニコンF用は絞り環に連動爪がないので、露出計には連動しません。

なお、弊社ではこうしたレンズメーカー製の、一眼レフ用単焦点レンズの分解整備も 行っております。またノリタ66とその交換レンズの整備も可能です。整備費用や納期については、遠慮なくお問い合わせください。

作例写真 すべてニコンD3 (ISO200 AWB) で撮影。