今月の一枚

2011年3月 フジカG690BL フジノン50mmF5.6

2011年3月 フジカG690BL フジノン50mmF5.6

フジノン50mmF5.6レンズ。

作例1 完成間近の東京スカイツリー(2011/3/29)

作例2江戸川土手からみた東京スカイツリー

作例3 満開の緋寒桜

 

解説

フジフィルムは他のフィルムメーカー同様、フィルムだけでなく様々なカメラを製造し続けているカメラメーカーでもあります。現在(2011年3月時点)も様々なフィルムカメラやデジタルカメラを製造販売していることには、特に説明は不要でしょう。デジタルカメラでは最新作のX100が人気だという話です。 フジが作ってきたカメラは、もろちん大衆向けのカメラも多数存在するのですが、一方でカメラで仕事をするプロ向けのカメラのラインナップが他のフィルムメーカー、例えばコニカなどと比べて厚いという特徴があったと思います。今回とりあげたフジカG690シリーズは、観光地や学校行事などの記念写真撮影でプロカメラマンがお金を稼ぐために作られた6x8cm判の中判カメラで、実際そうした用途に多く使用されていました。

初代モデルフジカG690が登場したのは1968年で、翌1969年にはレンズ着脱機構などに改良が加えられたフジカG690BLになっています。 基本的な構造はレンズシャッター式のレンジファインダーカメラで、レンズ交換ができるという大きな特徴がありました。G690シリーズのレンズとしては、標準が100mmF3.5、広角は50mmF5.6、初期の65mmF8、その後の65mmF5.6、望遠レンズとしては150mmF5.6と180mmF5.6があり、最後に登場したユニークなレンズとして自動露出機構をレンズに内蔵させたEBCフジノン100mmF3.5がありました。このレンズはアトムレンズです。 このカメラのフォーマットは6x9cm判で、シリーズ最後のモデルには6x7cm判(フジカGM670)も追加されましたが、6x9cm判のGM690カメラの外観は変えずフォーマットを変えただけというものでした。

フジカGシリーズはブロの仕事カメラにふさわしく、真四角なボディに円筒形のレンズがつけられた極めてシンプルな外観をしていて、アマチュアが喜びそうな機構はなにもついていません。つまりレンズとシャッター、絞り、そして正確な距離計が内蔵されただけのカメラでした。もちろんレンズ交換を実現するため、カメラ内部にレンズ交換時に開閉させる遮光幕を内蔵するといった凝った機構が備わっていますが、すべては写真を撮るのに必要な機能を備えたものです。いわゆるカメラを所有する楽しみといったものとは、かなり無縁な存在だと言えるでしょう。

しかしこのカメラで撮影した写真はすごいのです。6x9cm判という圧倒的な大サイズを存分に生かす精密な描写のフジノンレンズ群は、大きく伸ばした時にそのすぐれた性能をいかんなく発揮し、その鮮明な描写に目を奪われてしまうのです。今回使用したフジノン50mmF5.6レンズは、シリーズ最広角のレンズでライカ判に換算すると21mmに相当する超広角レンズですが、対称型の設計で画像に歪みがなく、少し絞ると画面端まできっちり写る素晴らしいレンズです。実は私はこのレンズを長年探し求めてきましたが、なかなか入手する機会がなく、今月縁あって私の手元にやってきたものです。初めて写してみましたが、その鮮鋭な描写はまったく期待どおりのものでした。作例写真は十分拡大してご覧に入れられないことが残念ですが、原版は非常に高解像で実に細かなところまで鮮明です。このレンズは、しかし当時はあまり売れず、在庫品の一部を中判フィールドカメラ用に外観などを変えて販売したそうです。現在では珍品レンズになってしまいました。

そのほかのレンズもいずれも実によく写り、またフィルムメーカーのレンズらしく、カラーでの発色が良いことも特徴の一つだと思います。 レンズ交換できるG690シリーズが終了した後に登場したレンズ固定式の中判レンジファインダーカメラのシリーズが、フジカGW690、GW670、GSW690といったモデルです。これらは外装がプラスチックになって軽量化され、もちろん相変わらず写りの良いカメラでしたが、私にはやはりレンズ交換できなくなってしまったことで魅力が感じられなくなってしまいました。

なおG690シリーズについては、弊社ではボディおよびレンズとも一般的なオーバーホールが可能です。ボディの遮光幕の交換もいたします。遠慮無くご相談ください。

作例写真 フィルムはすべてフジ160S PRO