今月の一枚

2012年2月 エンサイン フルビュー

エンサイン フルビュー

中枠のロック機構がある。

撮影レンズはこのように5mmほど前に引き出すことができる。

上部のファインダーから見える像は明るく、構図合わせは容易。

ボディ背面の赤窓でフィルム番号を見ながら、コマ送りをする。

中枠を取りだしたところ。

作例1 大提灯

作例3 絵馬

作例4 新参者

解説

今月はシンプルの極みと言える、ボックスカメラをご紹介いたします。イギリスの ホートン社はいろいろなボックスカメラを製造販売しましたが、デザインがユニークなカメラがこのフルビューです。カメラ上部に位置する大きなファインダー部のため、二眼レフカメラにも見えるので、二眼レフの一つとされる場合もありますが、ベースとなっているのはシンプルなボックスカメラですから、このカメラもボックスカメラの範疇でみたほうが適切ではないでしょうか。

フルビューの最初のモデルは戦前の1939年頃に登場していて、直方体型で一見すると普通のボックスカメラにしか見えません。しかし撮影レンズの真上に撮影レンズより大きな口径のビューレンズがあって、ボディ上部は大きな凸レンズが備わっています。ファインダー内部には反射ミラーが備わっていて、上部の凸レンズを通してかなり大きなファインダー像を観察することができるようになっています。このとき一般的な二眼レフのように、上部のレンズに目を近づけては視野全体が見えなくなってしまうので、目をかなり離して観察しなければなりません。ファインダーがこれと同じ方式の二眼レフカメラとしては、ドイツのフォクトレンダー社のブリリアントが知られていて、ブリリアントの方が先に登場しています。なおブリリアントはシャッターやレンズが高級な仕様なので、一般的に二眼レフカメラとして扱われています。

戦後1946年頃に登場した2世代目のモデルが、今回ご紹介するカメラです。全体の構造は初代モデルと同じですが、デザインが大幅に変わってユニークなスタイルになりました。どこか愛嬌があります。ボディは金属製で表面は黒色結晶塗装で処理されていのす。撮影レンズに比べて、ファインダーのレンズはかなり大きくとても目を引きます。 撮影レンズの右側にシャッター速度の切り替えレバー、左側にシャッターレリースレバーがあります。シャッターはエバーセット式の一速で、シャッターテスターで実測したところ約1/30秒でした。あとはバルブ撮影が可能です。 中枠はボディの横方向に引き出すようになっていて、ブローニーフィルム(120判)を使用して6x6cm判12コマの写真を撮影できます。フィルム送りは赤窓式。 撮影レンズは単レンズで焦点距離は約90mm、F11で絞りはありません。固定焦点で約2m以遠でピントが合います。さらにレンズ部を5mmほど引き出すことができて、その場合には1m前後にピントが来るようになっているということです。

フルビューは1950年にマイナーチェンジされ、外装の色が黒、赤、グレー、青の4色となりシンクロ接点が備わりました。1954年にはフルビュー・スーパー(Full-Vue Super)という、ファインダーカバーが備わりシャッター速度が2速になった高級型が登場します。そして1957年頃にはボディがプラスチック製となってしまい、より二眼レフのスタイルに近づいたフルビューフレックス(Fullvueflex)というモデルが登場し、これがこのシリーズの最終型となったのでした。

さて今回実際に撮影してみた結果では、無限遠付近では周辺部の描写がややものたりないのですが、中景では驚くほどシャープでクリアな写真が得られました。実はボックスカメラは、意外とよく写るものが多いのです。シャッターが単速、絞りも固定、ピントも固定ということで、撮影できる条件が限られてしまうのですが、露出やピントが適正に合う条件で撮影できると、目を見張るような写真を撮影できるのです。単レンズでも絞れば収差も少なくなり、そもそもレンズ構成枚数が最小なので、光線の透過率が高くコントラストが高く、ゴーストやフレアも出にくいのです。ボックスカメラはとても安価なものが多いので、ぜひもっと撮影に活用していただきたいと思います。

弊社ではこうしたボックスカメラの整備も、よろこんでお引き受けいたしておりますので、遠慮なくご相談ください。

★撮影フィルムはすべてフジ160S