今月の一枚

2012年4月 キエフ60 + ボルナ80mmF2.8

このカメラは左手側が右手側より長いが、キエフ6C時代にシャッターが左手側にあったことの名残だろう。TTLプリズムメーターは十分実用になり、便利だ。

背面から。このカメラは1989年製。

底部の巻き戻しボタンのように見えるものは、裏蓋開閉ボタン。押しながらスライドさせる。左右の円形のノブはフィルムおさえ軸。

レンズをはずしたところ。マウントはペンタコンシックスと同じ。

ゴム引き布幕のシャッター幕。私のこの個体は最高速は遅いが、シャッタームラなどはなくて安定して撮影できる。新品で購入後整備等はしていないが快調。。

作例1 1/250 F8

作例2 1/250 F11

作例3 1/250 F11

作例4 1/250 F11

作例5 1/250 F11

 

解説

今月はロシアカメラの中でもっとも私がよく使っているキエフ60をご紹介いたします。キエフ60は東独のKW社が開発したプラクチシックスと同じレンズマウントを持つ、6x6cm判一眼レフカメラです。プラクチシックスはその後ペンタコン社のペンタコンシックスと名前を変え、レンズマウントはペンタコンシックス(P6)マウントと呼ばれています。ペンタコンシックス用レンズは、東独のカール・ツァイス・イエナ社とメーヤー社が供給し、そのすぐれたレンズ性能は今でも大変魅力のあるものです。私も最初はプラクチシックスやペンタコンシックスを使っていたのですが、レンズは素晴らしいものの、ボディの性能と信頼性に大いに不満がありました。

ところが今から20年近く前にイギリスのカメラ屋さんを通じてキエフ60のことを知り、新品を購入したところ、動作感のラフさなどはロシア的であるものの、ファインダーの見やすさやTTLメーターの使いやすさなどからP6レンズを使用する際にはこのカメラを使うようになりました。その後もう一台追加して現在に至りますが、故障もなくたいへん快調です。今回はエキザクタ80mmF2.8を使用するために持ちだしたのですが、たまたま先日イギリスのアマチュアフォトグラファー誌(2012/3/17)にこのカメラの詳細な解説が掲載されていたので、参考としてその記事の一部を要約してご紹介したいと思います。


キエフ60はその時代で最も軽視されたメディウム・フォーマットカメラの1つである。(Ivor Matanle) キエフ6C((キエフ60に先行したモデル、実際には6Sと表記されているがキリル文字でSはCである)は、ソビエト連邦で1960年代の末期~70年代初期にデザインされて、現在のウクライナの首都であるキエフのArsenal Zavodによって製造された。1971年~1980年に販売された6Cは、シャッターリリースが左手側にあり、機械的に信頼できず、不人気であった。キエフ60は1984年に出現し、特にシャッターボタンが右手用に再配置され、信頼性問題のほとんどが完全に解決されたわけではないにしても、修正されたという点など再設計されたカメラであった。 キエフ60は35mm一眼レフと同様な形をもっていて、交換可能なフィルムバックがないという意味において、ペンタックス67またはペンタコンシックスを思い出させる。実際ペンタコンシックス用レンズを同じブリーチロック式マウントにより使用でき、元来ペンタコンシックスのために製造された優秀かつ豊富なカール・ツァイスレンズを使うことができるので、キエフ60はペンタコンシックスのクローンまたはコピーであると告発される。しかしそれはそうではない。キエフ60はより大きく、より重く、ペンタコンシックスとはまったく違う。 キエフ60の問題は次の通りである。コマ間隔の不規則、またわずかに重なるという問題は、オリジナルのプラクチシックス(ペンタコンシックスの前任者)と生じた同様な問題を思い出させる。原因は主として、旧ソ連圏の中で作られたフィルムと裏紙が西欧で作られた素材より厚いためである。内面反射の問題は、アーセナル工場から出荷されたキエフ60の内部がぴかぴかの黒い仕上がりをしていたためである。この問題は、つや消し黒塗料で内面を再仕上げすることによって修正することができる。シャッター/フィルム給送のトラブル、これは製造とアセンブリの低品質なコントロールによる重要な信頼性問題である。 1990年代と最近の10年の間に、ヨーロッパの2つの非常に評判が良い会社が、リエンジニアリングに基づいてキエフ60およびキエフ88カメラを再調整し、内部反射を取り除くために再仕上げするとともにカメラのエンジニアリング公差、潤滑、およびベアリング品質を修正したキエフ60を供給した。しかしキエフのアーセナル工場は最終的に2009年に閉鎖されたので、リエンジニアリング会社はもう新品のキエフ60カメラの供給品を得ることができない。この業者はキエフのArax (http://araxfoto.com) とチェコ共和国におけるHartblei (http://www.hartblei.com/)である。


元の記事ではこれらのカスタマイズ業者についてや、交換レンズやアクセサリーの紹介が続いています。私はここで指摘されているフィルムのコマ重なりの問題については、スタートマークを先に送るか巻き上げスプールに紙を巻いて軸を太らせる方法で対応しています。また内面反射については、先月のマウンテン・エルマー同様の症状が現れるので、内部に植毛紙を貼り付けして対策して好結果を得ています。

さて、すでキエフ60を20年近く使っているわけですが、やはりその魅力は交換レンズです。カール・ツァイス製のフレクトゴン50mmF4広角~1000mmF5.6反射望遠レンズやシュナイダー社製のクルタゴン60mmやクセノタール80mm、テレクセナー150mm、そしてソ連~ロシア製レンズにも非常に優れたレンズが多数あります。ソ連製レンズで特に私がよく写ると感心しているのは、ゾディアーク8 30mmF3.5魚眼(これはその後アルサットに名前が変わる)、ミール26B 45mmF3.5超広角、カレイナール3B 150mmF2.8レンズなどです。

今回作例を撮影したボルナ80mmF2.8もよく写る標準レンズで、最短撮影距離が60cmと近い点がカール・ツァイスのビオメタール80mmF2.8などより優れています。これらについては、1997年5月に発行された早川通信のペンタコンシックス特集の時に、当時手元にあったレンズを一通りご紹介していますので、ぜひご覧ください。またアマチュアフォトグラファー誌には最近のロシア製レンズがいくつか紹介されていて、私が興味を持ったのはMC PCS Arsat 45mmF3.5 ShiftやMC PCS Arsat 65mmF3.5 Shiftのあおりができるレンズ群です。そのうちに手に入れてみたいと思います。

なお弊社では、ペンタコンシックスやキエフ60用交換レンズの整備を行っています。またボディの整備もお受けいたしますが、Arax社のような信頼性向上のための処置は行っておりませんのでご了承ください。

作例写真 フィルムはすべてフジ160Sプロ