今月の一枚

2013年2月 デトローラ400 ヴェロスチグマート50mmF3.5

ボディ上部から。シャッター速度は1/1500秒で、アメリカ人に大いなる夢を与えたそうである。

ボディ上部から。シャッター速度は1/1500秒で、アメリカ人に大いなる夢を与えたそうである。

底面から。中央は裏蓋のロック。

底面から。中央は裏蓋のロック。

背面から。2つあるファインダー見口は、右が距離計、左が構図用。

背面から。2つあるファインダー見口は、右が距離計、左が構図用。

ライカと違って裏蓋をとりはずせるため、フィルム装てんは容易。シャッターはライカと同等の横走り布幕フォーカルプレーン式シャッター。

ライカと違って裏蓋をとりはずせるため、フィルム装てんは容易。シャッターはライカと同等の横走り布幕フォーカルプレーン式シャッター。

整備のために分解したところ。ファインダー機構部の隣にスローガバナーがある。

整備のために分解したところ。ファインダー機構部の隣にスローガバナーがある。

レンズマウントは独自のスクリューマウント。交換レンズは存在しない。

レンズマウントは独自のスクリューマウント。交換レンズは存在しない。

作例1 雷門 F8 1/200

作例1 雷門 F8 1/200

作例2 ビル F8 1/200

作例2 ビル F8 1/200

作例3 エキミセ。逆光だがすっきりしている  F8 1/200

作例3 エキミセ。逆光だがすっきりしている  F8 1/200

作例4 水上バス乗り場 F8 1/200

作例4 水上バス乗り場 F8 1/200

作例5 提灯。最短位置で撮影すると、ファインダーの中心に置いた被写体が、パララックスによりこれだけずれてしまう。ファインダーが端にあるためだ。レンズは絞り開放からシャープ。 F3.5開放 1/200

作例5 提灯。最短位置で撮影すると、ファインダーの中心に置いた被写体が、パララックスによりこれだけずれてしまう。ファインダーが端にあるためだ。レンズは絞り開放からシャープ。 F3.5開放 1/200

解説

デトローラ400は、アメリカのデトローラ社(Detrola Corp.)が1940年に発売した、ライカに似た機能と性能を持つ連動距離計と布幕フォーカルプレーンシャッターを備えた35mm判カメラです。
デトローラ社の最初はロス(John J. Ross)という人物が、フォード自動車のための工具と打ち抜き型を製造するために設立したそうです。1929年の大恐慌の後4球ラジオの製造を開始し、1931年にデトローラ・ラジオ社(Detrola Radio Corp.)となります。1936年にはデトローラ・ラジオ・テレビジョン社(Detrola Radio and Television)と社名が変わり、1937年にデトローラ社(Detrola Corp.)となりました。1941年にはロスは会社を手放してしまいますが、第二次世界大戦後の1948年までラジオ事業は継続され、その後モトローラ社(Motorola)に製造ラインが売却されたそうです。カメラ事業は太平洋戦争前の1938年~1940年にかけての短い期間、てがけられたようです。

デトローラ社の主なカメラはベスト判(127判)フィルムを使用し、3x4cmフォーマットの写真を撮影できる「ミニカム(minicam)」と呼ばれるタイプでした。最初がデトローラA型で、メニスカス単玉を固定焦点とし単速シャッターを備えたシンプルな構造のカメラです。デトローラB型以降は沈胴式金属鏡胴を持ち、さらにD、E、G、Hと発展するにつれ、レンズが高級型となってF値が明るくなり、シャッターも単速から複速になります。また光学式露出計を内蔵しています。このシリーズの最上位機はデトローラK型で、イレックスと名付けられたレンズの開放F値はF3.5です。GW、HW、KWとWがつくモデルは、レンズがウォーレンサック(Wollensak)社製のヴェロスチグマート(Velostigmat)が装着されています。

さてデトローラ400は、上記のカメラ群とは全く異なるモデルです。布幕式フォーカルプレーンシヤッターは、ライカに範をとった先幕と後幕を別々に制御する方式で、1秒~1/1500秒までのレンジがありました。スローガバナーはボディ上カバー部に内蔵されていて、高速シャッターを使用する時にはスローダイアルを「OUT」の位置にセットして、ガバナーの接続を切る必要があります。フィルム巻き上げはノブ式で、フィルムの巻き上げにシャッターチャージが連動するセルフコッキングになっているのも、ライカと同じです。コマ数計は巻き上げノブの下にあり手動セットですが、これもライカのお約束通りです。

レンズのピントリングに連動する距離計が内蔵されていて、構図を決めるファインダーは距離計の外側、つまり左側に併設されています。これは当時のライカの特許を回避するためと推測されます。レンズは交換可能ですが、交換レンズは存在しないようです。ねじ込み式のマウントはライカとは異なりマウント径は38mmです。標準レンズはヴェロスチグマート50mmF3.5で、3群4枚のテッサータイプでしょう。このヴェロスチグマート50mmF3.5レンズは第二次世界大戦後、ニューヨーク・ライツ社がドイツからの供給が途絶えたエルマー50mmF3.5レンズの代替としてウォーレンサック社に製造を依頼し、ライカ用として供給されたことが知られています。

ライカと大きく異なる点は裏蓋で、コンタックスのように裏蓋全体を取り外すことができます。このためフィルム装てんはライカよりはるかに容易で迅速に処置できます。この点はライカより優れています。またシンクロ可能なホットシューを備えていた点もライカより進んでいたと言えるでしょう。

このようにライカ同等のカメラの製造を目指したと言えるデトローラ400ですが、今実際にカメラを分解してみると、各所がカシメ止めされているため分解整備が困難であることや、部品の精度や品質などが充分とは言い難いものであることが一目瞭然です。この造りでは最高速1/1,500秒を安定させることは困難であったはずです。意あって力足らずといえるように思います。しかしヴェロスチグマート50mmF3.5レンズは後年ライカに供給されたことからもわかるように、たいへん優れた性能と品質を持つレンズであり、作例写真をご覧いただければわかるように、デトローラ400での撮影結果はシャープな写真が安定して得られています。

デトローラ400ですが、製造台数は800台程度とたいへん少ないことがわかっています。距離計の反射ミラーの接着剤に問題があったため、1940年の夏に大量の返品があり、現存する数は製造台数よりはるかに少ないようです。シリアル番号は13XXXになっているそうですが、プロトタイプの存在が知られていて、それは10XXXのシリアル番号とのことです。

デトローラ400の修理・整備ですが、このカメラは内部がカシメ止めされているため、たいへん手間がかかります。特にシャッター幕交換が必要な場合には、カシメをはずして処置することとなり、費用も時間もかかります。しかしきちんと整備すれば、作例写真のとおり、実用に使うことができます。修理・整備については、どうぞ弊社に遠慮なく相談ください。