今月の一枚

2014年4月 アルタ35 アルタノン50mmF2

201404_camera1L

一般的なバルナックライカ型の背面。

一般的なバルナックライカ型の背面。

底面から。

底面から。

アルタノン50mmF2レンズ。

アルタノン50mmF2レンズ。

アルタ35専用ケース。

アルタ35専用ケース。

美鈴光学工業の刻印。

美鈴光学工業の刻印。

操作部。

操作部。

早田が分解整備中のアルタ。

早田が分解整備中のアルタ。

作例1 F2 1/200

作例1 F2 1/200

作例2  F8 1/200

作例2  F8 1/200

作例3 F4 1/200

作例3 F4 1/200

作例4 F8 1/200

作例4 F8 1/200

作例5 F8 1/200 60cm目測

作例5 F8 1/200 60cm目測

作例6 F8 1/200

作例6 F8 1/200

第二次世界大戦前、世界最高の35mm判小型精密カメラはバルナック・ライカでした。戦前は特許の壁に阻まれ、ライカそっくりのコピーカメラを製造することは難しく、ソ連のフェド(FED)など特殊な国家のカメラをのぞくと、ライカそのままの姿のコピーカメラは登場しませんでした。また2013年12月にご紹介したセイキ・キヤノンのびっくり箱ファインダーのように、基本構造をライカに模したカメラは様々な工夫を凝らさざるをえませんでした。

第二次世界大戦中は、ライカの入手が困難になった各国軍部が秘密裏にライカコピーカメラの製造を行おうとしたことが知られていて、日本でもニッポンカメラなどが有名です。

第二次世界大戦後は敗戦国となったドイツの特許は賠償のため無効とされたこともあり、バルナックライカそっくりのコピーライカが、いろいろな国に登場します。中でも日本はほんとうのそっくりさんが多く、アルタ35(ALTA35)、キヤノン(CANNON)、チヨカ35(CHIYOCA35)、チヨタックス(CHIYOTAX)、イチコン35(ICHIKON-35)、オーナー(HONOR)、ジェイシー(JEICY)、レオタックス(LEOTAX)、メルコン(MELCON)、ミノルタ35(MINOLTA35)、ニッカ(NICCA)、タナック(TANACK)、ゼノビア35(ZENOBIA35)と枚挙にいとまがありません。コレクションにはたいへんおもしろい分野ですが、実際には珍品も多く、私もイチコン35やジェイシーなどは手にしたことがありません。

今回ご紹介するアルタ35も、そうした国産珍品ライカコピーカメラのひとつとして有名です。このカメラのルーツは1953年に国産唯一のライカ・スタンダードのコピー機チヨカ35で市場に参入した、ライゼ光学研究所製造、千代田商会販売の一連のバルナックライカのコピーシリーズの最終型チヨタックスⅢF(Chiyotax ⅢF)です。1956年に発売されたチヨタックスⅢF型には2種類存在し、初期型はチヨタックスカメラの刻印があり、後期型はライゼカメラの刻印となり、合計しても2,000台ほどしか製造されなかったとのことです。製造元のライゼカメラはその後三鈴商会の傘下にはいり、三鈴光学工業と名前を変えてアルタ35を製造したようです。したがってアルタ35の外観や性能は、チヨタックスⅢFとほとんど同じです。製造台数は文献によると500台程度ということですが、このカメラの製造番号は600番台ですからもう少し多いのかも知れませんが、現存しているのは数百台でしょうし、その中でも写真のように美麗なカメラはごく少数でしょう。

チヨタックスⅢFはその名からして、ライカⅢFのコピーを目指したものでしょうが、実際にその特徴を調べていくとライカⅢaの後期型にシンクロ機能を追加したカメラというのが適切です。それはファインダーと距離計の接眼窓の位置がⅢaのように離れていること、同様に視度補正レバーがⅢaと同じく接眼窓部にあること、低速シャッターダイヤルの速度の配置がⅢa時代のままであることなどからです。またシンクロ機構もライカⅢFのシャッターダイヤルの周囲に同調タイミングを調整するダイヤルを配置するという凝ったものではなく、単にX接点を用意しただけです。アルタもまったく同様ですが、しかしだからといって使いにくいカメラというわけではありません。そもそもライカⅢa自体がたいへん完成度の高いカメラですから、アルタ35も実に快適に撮影に使用できます。またカメラの品質も決して悪いものではなく、むしろ国産ライカコピー機としては上位に位置すると言って良いでしょう。メッキなどの品質も良くて、写真のカメラは非常に美麗で眺めているだけで楽しいです。

アルタ35には2種類の撮影レンズが供給されたことが知られていて、ひとつは小西六写真工業の名玉ヘキサー(HEXAR)50mmF3.5(沈胴)と、もうひとつは自社名がつけられたアルタノン(ALTANON)50mmF2です。ヘキサーはチヨカ時代からの伝統ですが、アルタノンはもちろんアルタ35になってから登場したレンズです。当時としては十分大口径のレンズですが、子細にみていくと、このレンズは国産ライカコピー機タナックシリーズの製造でも知られている田中光学の、タナー(TANAR)50mmF2とほとんど外観が同じです。また1mまで距離計に連動しますが、さらに約45cmまでヘリコイドを繰り出すことができ、目測になりますが接写ができるというスベックもタナーそのものですので、タナー50mmF2の名前違いと言えると思います。作例をご覧いただければわかるように、当時の国産第一級の50mmF2レンズと遜色のない写りだと思います。十分高性能でしょう。

このアルタ35が発売されていた頃、すでにライカはM3になっていたわけで、残念なことに時代遅れは否めず、販売は振るわなかったことでしょう。ほかの国産バルナックライカ・コピー機も同様で、この後次々に姿を消していきます。そして1960年代、国産35mm判一眼レフがライカに変わって35mm判カメラの王者に君臨していくことになるわけです。

なお弊社では国産ライカコピーカメラの整備は全機種可能で、実績も多数ございます。遠慮なくご相談ください。