1957年に発売されたフジペットは、そのデザインの良さでかつて良くカメラ雑紙に紹介された富士フィルムの名機です。このカメラのデザインは東京芸術大学教授田中芳郎氏(当時)の手によるそうです。その頃はデザインの専門家がカメラをデザインするということは珍しいことだったそうですが、フジペットの丸と三角をバランス良くまとめたデザインは今見てもとても魅力的です。さらにこのカメラはボディの色が黒、グレー、赤、黄、橙、緑の6色あったのです。カメラのコレクターなら全色揃えたくなるでしょうが、今では黒とグレー以外はなかなか目にすることがありません。
レンズはシングルメニスカス70mmF11固定焦点で、シャッター速度は1/50秒単速、お天気マークで絞りを変える(絞り値はF11、F16、F22に対応)という、シンプルな操作のカメラで、撮影の際にはレンズ鏡胴の脇の左右のレバーを順に押すだけという非常に簡単な操作とプラスチック製の軽量ボディが初心者に広く受け入れられ、なんと100万台を超えるという当時としては記録的大ヒットとなったことでも有名です。発売時のキャッチフレーズは「だれでも写せるみんなのカメラ」。今70歳くらいの世代の方は、学校の修学旅行や記念行事の際によく見かけたカメラ、あるいは自分が使ったカメラという話をされる方が少なくありません。そしてフジペットはとてもよく写ったよと話される方がたいへん多いです。
内部の構造もシンプルですが、メニスカス単玉の像面湾曲に対応するため、フィルムゲートが湾曲していますし、背面のフィルム送りの赤窓にはきちんと蓋ができるなど、性能を引き出すための処置はきちんとなされているカメラです。
今撮影してみるとブローニーサイズ6x6cmフォーマットなので、メニスカス単玉でもピントがあっているところはとてもシャープに見えます。ただしレンズの最良のピント位置は人物の集合記念写真を撮る状況に合わせてあるため、無限遠は開放ではややピントが甘くまた周辺部の写りも悪いので、天気が良いときには最小絞り(F22)に設定すると遠景も十分よく写ります。フジペットはシンプルですが、このカメラの使われ方をよく考えて各所適切な設定をしてあるということでしょう、その考え方は後年の「写ルンです」にきちんと引き継がれているわけです。
なおこのカメラは整備する箇所は少ないとは言え、撮影レンズのクモリや汚れ、シャッター機構部の動作不良、ファインダーのクモリなどの障害が発生している場合にはメンテナンスが必要です。作例を撮影したフジペットは弊社で一通り整備したものです。
★作例写真 フィルムはフジ160S PRO