オランダ製のカメラを中古カメラ店の店頭で見かけることはなかなかありません。かつて大判カメラのプロ用メーカーとしてカンボ(Cambo)社が有名で、私も最初に使った大判カメラがカンボのシンプルな4×5インチ判モノレールカメラでした。ですがそれ以外の普及機のカメラはほとんど日本では知られていないのではないかと思います。しかし実際には過去数十種類のオランダ製フィルムカメラがあるそうです。今回ご紹介するのは、オランダの首都アムステルダムにあったヴェナ(Vena)社が第二次世界大戦後まもなくに発売した、ヴェナレット(Venaret)という6x6cm判のシンプルな金属製カメラです。
ヴェナ社は1940年にサミュエル・ナールデンとエバート・フェルレーという人物が設立した光学機器のメーカーだそうです。カメラは1948年頃にこのヴェナレットを発売、1949年頃には6x9cm判のボックスカメラ、ヴェナ・ボックス(Vena-Box)を発売しています。これらのカメラはシンプルですが、扱いやすくて良く写ったので数万台製造されたそうですが、しかしヴェナ社は1951年には破綻してしまったそうです。
ヴェナレットの開発にあたって、ドイツでレフレックス・コレレ(Reflex-Korelle)という有名な6x6cm判高級一眼レフカメラを開発したフランツ・コッホマン(F. Kochmann)が協力したそうで、たしかにヴェナレットの外観はレフレックス・コレレのデザインに似た雰囲気があります。ヴェナレットはボックスカメラを少し高級にした仕様で、シャッターはシンプルなエバーセット式ですが1/25秒と1/50秒の2段階の設定が可能で、T(タイム)も備わっています。レンズはボックスカメラでは一般的なメニスカス単玉ではなく高級な2枚玉で75mmF7.7、立派な名前もつけられています。絞りは開放F7.7からF9、F11,F16と4段階の設定が可能です。ピントは固定焦点になっています。構図を決めるファインダーも光学式になっています。フィルムの装?は裏ぶたを完全にとりはずすので容易にでき、フィルム送りは赤窓式です。
実際に撮影してみますと、とても気軽に使えるカメラであることがわかります。撮影結果は作例をご覧いただくとわかるようにかなり良く写り、比較的近距離での撮影結果が特に良いようです。当時のカメラに求められた重要な機能のひとつは家族写真を綺麗にとれることでしょうから、このヴェナレットは十分及第点を与えることができると思います。大ヒットしたことも十分納得できます。私もこのカメラがとても良く写るのが気に入って、その昔外観はあまり綺麗ではないのですが1台入手して今も大切に手元に置いてあります。
なおヴェナレットにはシンクロ接点付きのホットシューが備わったモデルがあって、そちらが正しいヴェナレット、この写真のモデルはホットシューがないのでヴェナレット・ジュニアが正式な名称とのことです。私はまだホットシューが備わったヴェナレットを見たことがありません。
★フィルムはフジNS160