今月の一枚

2019年9月 マイクロフレックス

2019年9月 マイクロフレックス レンズはマイクロナー77.5mmF3.5

2019年9月 マイクロフレックス

正面からの姿はマイクロコードによく似ているが、ピントノブは左手側にある

2019年9月 マイクロフレックス

巻き上げはクランク方式となり、迅速な操作が可能となった

2019年9月 マイクロフレックス

裏蓋のロックはローライフレックスと同じ方式を採用

2019年9月 マイクロフレックス

フィルム装填はスタートマーク式

2019年9月 マイクロフレックス

純正フードを装着

2019年9月 マイクロフレックス

専用革ケース

2019年9月 マイクロフレックス

元箱と説明書

2019年9月 マイクロフレックス

1/125 F11

2019年9月 マイクロフレックス

1/125 F11

2019年9月 マイクロフレックス

1/125 F11

2019年9月 マイクロフレックス

1/125 F11

2019年9月 マイクロフレックス

1/125 F11

2019年9月 マイクロフレックス

1/125 F11

 

ダゲレオタイプが登場してから20世紀初頭までの時代、イギリスはカメラ製造大国でした。全世界のカメラメーカーとカメラをほぼ網羅していることで有名な、マッケオンのプライスガイド2005-2006年版(最新版)の中には、イギリスのカメラメーカーは約120社も掲載されています。そしてその大半が19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍し、多数の木製カメラを製造し、国外に多数輸出もしていました。当時のカメラはほとんどが木製でイギリスには高級木製家具を製造する高度な指し物技術(木工技術)があり、さらに当時世界の7つの海を支配していた世界最強の国家でしたから、マホガニーやチークといった木製カメラ用の最高の素材を海外から容易に確保することができました。また写真を写すために欠かすことのできないレンズの調達についても、イギリスにはロスやダルメーヤー、テーラー・ホブソン、レイといった当時世界第一級の光学技術を持ったメーカーがいくつも存在し、数々の名レンズを世に送ったのでした。そうして必然的にイギリスの木製カメラは世界最高級のものとなったのです。今見ても工芸品のように美しく機能的にも優れたイギリス製の木製カメラは、大変高価に取り引きされています。

しかし1930年代に入り、ドイツのカメラメーカーが急速に力をつけ、カメラも金属製が主流になりつつあった時代に、イギリスのメーカーは旧態依然として木製カメラの製造を続け、新しい技術を取り入れたり小型カメラを開発しようとしたりする努力をしたメーカーは数少なかったのです。そしてイギリスのカメラ産業は徐々に衰退していきました。
第二次世界大戦で戦勝国となったイギリスですが、世界的にカメラの主流が全金属製の小型カメラに急速に移りつつあった時に対応できたイギリスのメーカーは数少なく、結局1960年代までにほとんどのカメラメーカーが消滅してしまうことになりました。今回ご紹介するマイクロフレックスは、戦後にイギリスが製造した全金属製二眼レフカメラのひとつですが、実はこの機種の元になったマイクロコードとこの機種しかイギリスの全金属製二眼レフは存在しません。

キングストン(Kingston-upon-Thames)にあったマイクロ・プレシジョン(M.P.P. = Micro Precision Products LTD.)社は、第二次世界大戦中の1941年に設立され、主に戦後活動したカメラメーカで、1982年にカメラ製造から撤退しています。イギリスのカメラ雑誌のリストなどでは、M.P.P.とメーカー名が略称で書かれていることが多く、1976年から社名がMPP Photographic Products Ltd.に変更されています。

M.P.P.はプロあるいはハイアマチュア向けの4×5インチ判の大判テクニカルカメラである「マイクロ・テクニカル(Micro-Technical)」カメラが主力製品で、戦後間もない1948年に発売、このシリーズはMkⅧ(1963)まで発展します。またマイクロプレス(Micro-Press)という報道向けの4×5インチ判大判カメラも1951年に発売しています。

M.P.P初の二眼レフカメラ、マイクロコード(Microcord)は1951年に発売されました。このカメラは戦前のローライコードⅢ型をベースにしたものであるとイギリスの解説書に書かれていますが、シャッター速度と絞りの設定がローライフレックスを真似た前面の2つのダイアルによるセット方式になっているあたり、少しでも高級に見せようとした印象を受けます。マイクロコードにはマイナーな改良を受けた2型があります。

MPPは上位機種であるマイクロフレックス(Microflex)を1958年頃発売しました。巻き上げがクランク方式となり、同時にセルフコッキング(巻き上げと同時にシャッターをチャージする)となりましたので、速写性能が大幅に向上しとても使いやすい二眼レフカメラになっています。そのほかの改良点としては、シャッター速度と絞り値の表示窓が横長に大きくなり見やすくなり、また巻き上げクランクがボディ右手側についたため、合焦ノブは反対の左手側に移動しています。これもローライフレックスと同様の仕様になりましたが、フィルムの1駒目を出すのはスタートマークを合わせるセミオートマット方式です。

撮影レンズも変更になり、マイクロコードはロス・エクスプレス77.5mmF3.5でしたが、新しくマイクロナー(Micronar)77.5mmF3.5となりました。このレンズはロスと同じくイギリスの著名なレンズメーカーであるテーラー&テーラー・ホブソン(Taylor, Taylor and Hobson)の手によるもので、構成はエクスプレス同様3群4枚のテッサータイプです。マイクロナーはエクスプレスと同等にシャープであり、さらに周辺部の解像力や画面全体のコントラストがより良いと言う意見もあります。いずれにしても良質の作品が得られる点ではローライフレックスのテッサーや国産二眼レフの最高級機クラスと同等と言え、今回の作例写真も現像を依頼した大石カメラ店さんから、実によく写っているネガですねとお褒めの言葉をいただきました(笑)。

そのほかの特徴として、マイクロフレックスはローライフレックスの一時期の機種同様、シャッター速度と絞り値がライトバリュー方式で連動します。絞り設定ダイヤル中央のボタンを押すと、それぞれが独立してセットできます。また右手側の側面前方にはスライド式のノブがありますが、これを下に押し下げるとフィルムを巻き上げることなくシャッターをチャージでき、二重露出が可能です。フードなどのアクセサリーは、マイクロコードと共用で、実はローライコードと同じ規格のバヨネットマウントがレンズ部に備わっているため、フィルターやフード、接写レンズなどすべてローライコード用(RIあるいはBIと言われる)や国産の同じ規格で作られたオートコードなどのものが装着可能です。なおマイクロフレックスの製造番号は14,000番から始まっているそうです。

弊社ではこれらのイギリス製二眼レフカメラの修理が可能です。遠慮無くご相談ください。

★作例写真 フィルムはフジNS160