仕事柄いろいろな方からカメラをいただくことが時々あります。このハヤタ・カメララボを設立したときに、取材の記事をご覧になったある高齢のご婦人から「なくなった主人のカメラを部品取りにしてください」と、ニッケルエルマー50mmF3.5付きの美麗なライカDⅢをいただきました。シャッター幕交換を行って整備したライカDⅢは、ワンオーナー物で元々の状態が良かったこともあり、とても快調に動作しました。そのシャッター音の静かなことには驚きました。各部の精度も撮影結果も申し分ありませんでしたので、そのまま弊社のライカの原器となって今にいたっています。
今月大成光機のウェルミー35M3(Welmy 35 M3)という、外観がとてもユニークなカメラをいただきました。早速試写してみたところ、写りが思わしくありません。オートコリメーターで計測したピント位置がかなり前ピンを示しましたので、分解してレンズの調整を行おうとしましたが、レンズの組み立て位置に異常が無く調整できませんでした。ふと思い立ってトリプリット構成の3枚玉レンズであるテリオノン(Terionon)45mmF3.5の真ん中の玉を裏返してみました。そうしたら無限遠位置でぴったり合焦するようになり、1週間以上続いた雨がようやくやんで晴天となった昨日試写したところ、見違えるような素晴らしい写真を撮影することができました。作例写真のとおりです。以前分解した人が中玉を反対にしてしまったのですね。
このウェルミー35M3のような普及機、入門機クラスのカメラですと、撮影結果が芳しくなくても所詮安物だから写りが悪くて当然といった先入観でカメラをとらえてしまうことが有り勝ちです。気をつけなければと改めて思いました。
大成光機は6x6cm判スプリングカメラ、ウェルミーシックスからカメラの製造を開始しました。昭和23年(1948年)のことです。1950年頃からの二眼レフカメラブームには目を向けず、スプリングカメラの入門機~中級機クラスのカメラの製造を続けていましたが、昭和29年(1954年)に35mm判小型カメラの製造に転進します。最初はウェルミー35という目測式の入門機クラスのカメラでした。昭和31年頃矢継ぎ早に距離計連動タイプの中級機をだします。スーパーウェルミー、スーパーウェストマット、そして今回ご紹介したウェルミー35M3です。これらの機種は兄弟機で、ファインダーやレンズに違いはありますが、いずれもレンズ鏡胴の先端部にピント調整用のギアを設けているという操作上の特徴があります。もちろんそれがデザイン上の特徴にもなっています。どこかでみたことがあるデザインなのですが、実は第二次世界大戦中の1940年にアメリカで製造されたコダック35RFが鏡胴先端部にギアを設けてピント調整を行うようになっていて、それを思い出させるのでした。
ウェルミー35M3のシャッターユニットは「ウェルミー」で、1/5~1/300秒とバルブ、絞りはF3.5~F16。ファインダーは一眼式距離計内蔵で、二重像合致式です。レンズのピント調整は前玉回転式、最短撮影距離は1m(3.5feet)。フィルム巻き上げはレバー式ですが2回巻き上げです。フィルムカウンターは手動セット式で逆算式です。操作性は悪くなく、コンパクトで使いやすいカメラです。ウェルミー35M3の「M3」というのは、たぶんライカM3のデザインを意識しているのだとおもいます。ファインダー前部のデザインに意図を感じます。
なおスーパーウェルミーとスーパーウェストマットは、ピントあわせのギア部がなくなって鏡胴基部でヘリコイドを操作する別バージョンが存在しています。そのようにいろいろなカメラを作ったものの会社の業績は芳しくなかったようで、1958年のウェルミーワイドという広角専用機が最後のカメラ製品となりました。大成光機は1960年に当時の小西六写真工業(現コニカミノルタ)に買収されて子会社となり、幾多の変遷を経て現在はコニカミノルタメカトロニクス株式会社になっています。
弊社では大成光機製の各種カメラの分解整備も行っております。