今月の一枚

2016年1月 クラルスMS-35 / ラプター50mmF2

201601_camera1L

右の接眼部が距離計、左の接眼部は50mmファインダー。

右の接眼部が距離計、左の接眼部は50mmファインダー。

201601_camera3L

シャッター速度セットはダイアルを持ち上げて行う。

底部中央部に三脚穴。

底部中央部に三脚穴。

フィルム送りはスプロケット式。軸上にシャッターボタンが配置されていることなどは、ライカに準じている。

フィルム送りはスプロケット式。軸上にシャッターボタンが配置されていることなどは、ライカに準じている。

圧板はぴかぴか。

圧板はぴかぴか。

ボディの分解整備。シャッター幕交換を行っている。

ボディの分解整備。シャッター幕交換を行っている。

作例1 F11 1/200

作例1 F11 1/200

作例2  F8 1/200

作例2  F8 1/200

作例3 F11 1/200

作例3 F11 1/200

作例4 F11 1/200

作例4 F11 1/200

作例5 F11 1/200

作例5 F11 1/200

アメリカ合衆国のミネアポリス(Minneapolis)で活動したクラルス・カメラ社(Clarus Camera Mfg.Co.)については、詳しい資料が手元にありません。カメラとしては布幕フォーカルプレーン式シャッターを搭載し、レンズ交換可能な連動距離計内蔵のクラルスMS-35というカメラと、外観はよく似ていますがレンズシャッターに変わったウェスコン(Wescon)が知られています。

今回お客様からMS-35の整備のご依頼を受けましたが、当初おあずかりしたカメラとレンズの組み合わせでは距離計が連動せず、別のボディを探していただくことになりました。資料によればボディには少なくとも3つの異なるバージョンが存在するとのことです。その後距離計が連動するボディを改めてお預かりして整備したわけですが、外観はほぼ同じなのに内部機構が異なるとは驚きました。

MS-35は戦後間もない1946年から1952年頃にかけて生産されたそうですが、デザインはモダンな雰囲気をもっています。大柄なカメラですがアルミ削り出しのボディの質感は良く、見た目は悪くありません。というかとても格好の良いカメラです。

布幕フォーカルプレーン式シャッターは1/25秒~1/1000秒のレンジを持ち、低速機構は備わっていません。ファインダーは二眼式で、右側の接眼部はファインダー、左側が距離計です。距離計はレンズ後端のカムにストレートに繋がっていて、遠距離と近距離を個別に調整するような機構はありません。

実際に分解してみると、内部の造りは当時のアメリカのカメラ全般に言えることですがかなりアバウトなもので、特に高速側のシャッター速度が安定しません。縦位置に構えると走行中にスリット幅が変化してしまうため、露出むらが生じたりします。

交換レンズは米国の有名なレンズメーカーであるウォーレンサック(Wollensak)社の、ヴェロスチグマート(Velostigmat)50mmF2.8が一般的なようですが、大口径のラプター(Raptar)50mmF2レンズも少数造られたようです。また広角レンズとしてはラプター35mmF3.5、望遠レンズとしてはラプター101mmF3.5が用意されていました。広角レンズと望遠レンズを使用する時には、ファインダーに専用アタッチメントレンズを装着することができました。交換レンズとファインダーアタッチメントは、非常に珍しいものです。

ヴェロスチグマートはニューヨーク・ライツ社がライカの純正交換レンズとして採用したこともあり、その性能は優れたものです。今回カメラとレンズを撮影可能な状態に整備できましたので早速試写してみましたが、ラプター50mmF2レンズの性能はかなりハイレベルで、その描写の美しさには驚かされました。素晴らしいレンズだと思います。そのためでしょうか、このカメラのレンズマウントは独自のスクリューマウントですが、なんと最近ソニーα7シリーズ用のマウントアダプターが市販されていることを知り、こんなマイナーなメーカーのものまでアダプターが存在することに、これまた驚いた次第です。

なおクラルスの整備の可否については、実機の状態を拝見してから判断させていただきます。

レンズはラプター50mmF2、フィルムはフジ業務用フィルム