今月の一枚

2008年11月 ローライ35 テッサー40mmF3.5

上部から。

カールツァイス製テッサー40mmF3.5レンズ。

ローライ35の分解整備。

レンズおよび絞り機構部の分解。

ファインダーの分解清掃。

重修理ではここまで分解することもある。

ドイツ製最初期型内部。奥に見えるギアが金属製。

ドイツ製最初期型は厚板のバネの構造が異なり、巻き取り軸は金属製。

作例1 露天商 1/250 F11 コダックSG400

作例2 戸越銀座 1/60 F8 コダックSG400

作例3 お早めに、、 1/250 F8 コダックSG400

 

解説

「ローライ」といえば二眼レフというイメージが強く、現在もローライフレックスやローライコードは「超」人気です。しかしローライは二眼レフ以外にも多彩なカメラを世に送り出し、カメラの進歩に多大な貢献をしてきました。今回取り上げるローライ35も35mm判コンパクトカメラの新しい歴史を創った、カメラ史上に燦然と輝く珠玉の名機です。

1967年に初代ローライ35が世に出ると、それまでレンズの大口径化と露出計や自動露出機能の内蔵によって大型化が進んでいた35mm判小型カメラメーカーに大きな衝撃を与え、特に日本のメーカーはこれ以後小型化競争を繰り広げることになりました。また日本では1960年代前半ハーフサイズカメラが大流行しましたが、35ミリ判フルサイズカメラの小型化によって急速に下火になっていきました。ローライ35は世界のコンパクトカメラの流れを変えてしまったのです。

ローライ35は登場から40年が過ぎた今見てもそのコンパクトさとデザインの美しさは群を抜いており、その写りの良さもあいまって所有し使用する者に心から深い満足を与えてくれる逸品です。 ローライ35については早川通信第19号でその特徴ある構造やバリエーション、使い方など詳細に解説いたしましたので、ここではごく簡単にご紹介いたします。

ローライ35(1967)は最初ドイツ国内で製造されていましたが、1973年からシンガポール工場で製造されるようになります。機能を簡略化したトリオターレンズ搭載のローライB35とさらに露出計を省いた廉価版C35は1969年に登場しています。24金メッキ仕上げの豪華版ローライ35GOLDはローライ35製造150万台を記念して1971年に1200台ほどが販売されたそうです。 1974年新開発のゾナー40mmF2.8レンズを搭載した上位機のローライ35Sが登場します。カール・ツァイス社の設計でローライが製造、コーティングもローライHFTマルチコーティングが採用されています。このゴールドモデル、ローライ35S GOLDは1976年にローライ35シリーズ生産200万台を記念して少数が販売されました。なお従来のローライ35は、35Sと区別するためにローライ35Tと名称が変わりましたが中身は同じです。

1979年には35S生産100万台を記念したローライ35Sシルバーが少量生産されています。 1978年ローライB35の露出計表示がLEDに変わったローライ35LEDが登場、1980年には35Sと35TもLED表示に変わり、それぞれローライ35SE、35TEとなりました。レンズの沈胴ボタンの位置が変更されるなどの違いもあります。1990年ローライ35SEの後継モデルとして、ローライ35クラシック(Classic)が発売されます。それまでのローライ35シリーズと異なって、アクセサリーシューがボディ上部に付くなど、外観も変わりました。ローライ35クラシックは1997年まで約8年間販売されましたが、その間カラーのバリエーションとしてゴールド、プラチナ、チタン、ブラックが存在します。さらに1997年には製造終了を記念してローライ35 Classic Royalが1000台限定で販売されました。金箔入り青漆塗り塗装で各所に金メッキが使用され、ストロボやケースを納められる専用木箱入り、価格は115万というコレクション用モデルでした。

ところでローライ35はユニークなカメラであるため、使いこなしには多少知識が必要です。故障につながる可能性のあるポイントとしては、レンズが沈胴されている状態ではシャッターを切ることはできませんが、勘違いして無理矢理巻き上げしようとすると巻き上げ機構部を痛めます。レンズを沈胴させたい場合、シャッターをチャージした状態、すなわちフィルムを巻き上げた状態でないと沈胴させることができないのですが、巻き上げが済んでいない状態でボディ上部の沈胴ロックボタンを押し込むことができないことに気がつかず、無理に沈胴させようとすると内部の部品が歪んでします。この故障の修理依頼は、少なくないので注意してください。絞りダイアルにはロック機構があるモデルでは。無理に回すと内部の固定爪を損耗しますので、ロックをきちんと解除して操作してください。

それから良く相談をお受けするのは、初期のモデルでシンガポール製かドイツ製かいずれが良いかということです。撮影結果からは変わらないと言えるでしょう。しかし各部の部品の品質についてはドイツ製が優れている部分があります。わかりやすいのはファインダーで、ドイツ製はガラスレンズですが、シンガポール製は一部にプラスチックレンズが採用されています。このためドイツ製のファインダー倍率はシンガポール製のものより高くなっていて、正面から見るとドイツ製はシンガポール製よりファインダー対物窓が小さいのにもかかわらず撮影対象が大きく見えるのです。さらにプラスチックレンズが曇ってくると完全にきれいにはできない場合があるという問題もあります。また内部のギアもドイツ製は金属製なのにシンガポール製はプラスチック製に置き換わっている箇所があります。ドイツ製がシンガポール製より高価であるのは、やはり理由があることなのでした。しかしシンガポール製で実用上問題があるということはありません。

それよりレンズのことが気になるかもしれません。ローライ35に搭載されているレンズはドイツ時代からシンガポール工場の初期モデルはカール・ツァイス製造のテッサー40mm F3.5で、その後ローライの製造によるものに代わります。一部にシュナイダー製のSクセナー付きも存在しました。1974年にはゾナー40mmF2.8の高級判も登場します。B35などの廉価版シリーズにはトリオター40mmF3.5が使われました。どのレンズも実用上十分ですが、私は個人的には特にシャープなテッサーが好みです。いずれにしてもローライ35はどのモデルも魅力的ですから、自分の気に入ったデザインのモデルを手にしてください。

さて、弊社にはローライ35シリーズの修理のご依頼はたいへん多くいただきます。やはり小型で携帯性に優れ、写りが良く、トータルとしての実用性がきわめて高いことが人気の秘密でしょう。オーバーホールの基本料金は税別18,000円、部品交換が必要な場合は別途お見積もりいたしております。修理についてはどうぞ遠慮なくご相談ください。