このレンズは昭和31年発売当時世界一の明るさを誇った35mm広角レンズです。また少し遅れて登場したズノー35mmF1.7、翌年のキヤノン35mmF1.8、翌々年のキヤノン35mmF1.5など、国産大口径レンズ競争が広角レンズにも波及する端緒を開いたレンズとも言えるでしょう。 ニコンの説明によると35mm広角レンズが「準標準レンズ」として多用されるようになってきたので、市場のニーズに対応すべく1956年1月大口径広角レンズを製作し、ニコンSマウント用は1956年4月発売、ライカマウント用を1957年3月に発売したとということです。ニッコールレンズとしては1970年にニコンF用ニッコールN35mmF1.4レンズが登場するまで、もっとも明るい35mm級レンズでした。
この35mmF1.8は当時類のない大口径広角レンズにもかかわらず、像面の平坦性が良好なうえ、球面収差、コマ収差、非点収差を抑え、周辺まで鮮鋭に解像するという優れた特徴を持つ傑作レンズでした。米国特許を取得したというレンズ構成は他に例のないクセノタールタイプで、5群7枚の光学系の4枚が高屈折率のランタンクラウンガラスを使用しているそうです。ニコンのホームページのニッコール千夜一夜物語で佐藤治夫さんが詳しく解説されているので、そちらをぜひご覧ください。 http://www.nikon-image.com/jpn/enjoy/interview/historynikkor/2000/0003/
ニコンS用は最初から軽合金製で黒塗装、重量は約160gと比較的軽量ですが、ライカマウント用は真鍮製で全体がクローム仕上げ、絞り環だけが黒塗装白文字というまったく異なる印象のレンズです。このレンズ全体の製造本数は8,400本ほど、そのうち約1,500本がライカマウント用ということです。なおご存じの通り、先年ニコンSPが復刻された際、装備されたレンズがこのWニッコール35mmF1.8の復刻版で、マルチコートになっているなどより一層の性能の向上が図られたそうです。しかし個人的には、試作で終わった幻のWニッコール35mmF1.4レンズをぜひとも生産してほしかったのですが、、
このレンズはとてもコンパクトなのにF1.8という現在でも十分大口径と言える明るさを持ち、どのような状況にも対応できる万能レンズとして私の常用レンズのひとつです。光線状態が厳しい時でも安心して絞りを開けて撮影できます。開放付近ではややコントラストが低いですが、細かなところまで解像し、周辺部が流れたりするようなことはありません。またボケがきれいであることも特徴だと思います。
さてまた機会をあらためてニコンSPについて書きたいと思いますが、弊社ではニコンS系のカメラについては、オーバーホールに加え様々な修理が可能です。特にお客様に喜んでいただいているのは、ファインダーのカビ跡の除去や、反射膜劣化の場合の再蒸着、バルサム切れの修理といった一連のファインダーまわりの処置です。ファインダー光学系の外から見た様子も、また視野も見違えるほどよく見えるようになります。なおSPの広角ファインダーについては、フレームが蒸着されたレンズ部の清掃ができないため、その部分の汚れの状況によって最終的な見え方が左右されてしまうことはご承知おきください。
それからニコンSPについては、視度補正レンズユニット(税込5,400円)をご用意しています。これは一つ一つ手作業で製作しているもののため外観にはばらつきがありますが、メインファインダーと広角ファインダーの双方をカバーするようになっており、いずれのファインダーもとても良く見えるようになります。中に組み込んである視度補正レンズはニコン純正のものです。私は常用している2台のニコンSPのいずれにも、-2度の視度補正レンズを常用して快適にカメラを使用しています。なおこの商品は受注生産とさせていただいているため、ご注文いただいてから10日前後お時間を頂戴いたします。また使用上の注意点もございますので、遠慮お問い合わせください。