今月の一枚

2009年11月 カリプソ フロール35mmF3.5 

ボティ外郭から本体機構部を抜いたところ。6気圧防水の要は本体機構部の縁のOリング。

右手にレリースレバー兼用の巻上げレバーとシャッタダイアルがある。レバー手前の縁にギザつき銀色の部品はシャッターレリーズロック。フィルム巻き戻しはノブ式。

フィルムカウンターは底面にある。キャップと本体のカリプソのロゴがおしゃれだ。

本体機構部を引き抜く前にレンズをはずすのをわすれると、取り外し用の爪を折損してしまうので要注意。フィルムは圧板の下を通す。

ソン・ベルチオ フロール35mmF3.5。

ニコノスⅤ型オレンジにフロール35mmF3.5を、カリプソにWニッコール35mmF2.5レンズを装着したところ。

作例1 ヘ音記号 1/250 F11 コダックSG400

作例2 浅草寺二天門改修完了間近 1/250 F11 コダックSG400

作例3 浅草寺菊花展にて 1/125 F8 コダックSG400

作例4 交差点 1/250 F11 コダックSG400

 

解説

カリプソはフランスの潜水用品メーカーであったラ・スピロテクニーク(La Spirotechnique、現在はAqualung France)社が、1961年5月に製造販売を開始した水深50m(6気圧)まで耐えることができる本格的な35mm判(ライカ判)の水中カメラです。ハウジングを併用せずカメラ本体をそのまま水中に持ち込んで使用できるタイプのカメラとしては、世界初となる快挙でした。

カリプソが特に優れていた点のひとつは、6気圧に耐える驚くべき強靱なカメラであるのに、一般的なライカ判のカメラに比べてさほど大きなサイズではないことを挙げることができます。特殊な耐水圧処理を行ったボディ外郭の中にカメラ機構部を巧みに納め、レンズも含めた中枢部には外圧が直接かからない二重構造になっています。

シャッターは縦走り式のギロチンシャッターで、フォーカルプレーン式シャッターに比べて大幅な省スペースに貢献しています。 また操作も多少慣れが必要ですが、軽快な撮影が可能であることも優れた特徴だと思います。特に潜水服を着た状態でも容易な操作ができるように、シャッターレリーズと巻き上げを一つのレバーで兼用させたのは、優れたアイデアであったのではないでしょうか。撮影レンズは同じフランスの有名光学メーカーであるソン・ベルチオ(Som Berthiot)社製のフロール35mmF3.5、3群4枚のテッサータイプです。

さて実際に撮影する場合には、いくつか注意点があります。まずフィルムを装填するためにボディ外郭から機構部を引き出さなければなりませんが、初めての方が間違いやすいのはレンズをはずさずに本体内部を引き抜こうとすることで、無理をすると引き抜く時にテコをかける爪を折損してしまうので注意が必要です。 フィルムの装填フィルムは、固定された厚板の下を通さなければなりません。フィルム送りは巻き上げ軸だけで制御するため、フィルムの駒間が多少不揃いになるのはやむをえないところです(これはスプロケット式となるニコノスⅢ型で改良されました)。

シャッターダイアルには目盛りごとのクリックストップはないので、丁寧に目盛りと数字を合わせるようにします。巻き上げレバーはシャッターレリースレバーを兼用していて、レバーを手前につまむように押すとシャッターが切れます。するとレバーが今度は外側に開くので、それを元の位置に戻すと同時にフィルムが巻き上げられます。フィルムの巻き戻しは巻き戻しノブをまわすだけで行えますが、撮影中に不用意にこのノブに触わらないようにしなければいけません。

ピントは目測式ですので、レンズの絞りによる被写界深度の変化をうまく利用して、ピントの合う範囲を広めに設定して撮影すると確実です。レンズの被写界深度表示は、たいへん見やすくわかりやすくできています。この方式はそのまま、後継機であるニコノス用のニッコールレンズに引き継がれています。 カリプソには速度範囲が1/30秒~1/1000秒のファーストモデルと、1/15秒~1/500秒までのセカンドモデルが知られています。

その後1962年にラ・スピロテクニークはカリプソの製造販売権の譲渡を日本光学工業株式会社(現株式会社ニコン)に打診し、技術提携契約を締結したそうです。そしてカリプソは1963年8月にニコノス(Nikonos)と名前を変えて、日本光学が製造販売を開始したことはよく知られています。ニコノスのボディ構造はほとんどカリプソと同じですが、ファインダーがカリプソの逆ガリレオ式からパララックス補正マーク入りのブライトフレームが表示されるアルバダ式になっています。また外装は全体が黒色です(ごく初期に白い貼り革のモデルが存在しました)。この初代ニコノスは後継機が登場してからはⅠ型と呼ばれています。

ニコノスの標準レンズは、最終機ニコノスV型が2001年で生産終了となるまでWニッコール35mmF2.5でした。このレンズはニコンSカメラ用として1952年に登場した当時、世界でもっとも明るい35mmレンズとして注目を集めた傑作レンズで、その後ニコノス用に姿を変えて半世紀にわたり市場に供給され続けた超ロングランレンズとなったのでした。なおニコンではニコノスに先立って、ニコンS2用の水中ハウジング、ニコンマリンを製造したことがありました。

ニコノスⅠ型はフランスではカリプソの名前でスピロテクニーク社から販売が続けられ、巻き戻しがクランク式などに改良されたⅡ型ではカリプソ/ニコノスとダブルネームになったモデルをクラシックカメラ店の店頭で見ることがあります。 カリプソもニコノスもマウントは共通ですので、カリプソ用のフランス製レンズをニコノスⅣ-A型やⅤ型に装着して、AEで撮影することも可能です。今回は正真正銘、カリプソで撮影してみました。ソン・ベルチオのレンズは十分よく写るので、私の好きなレンズのひとつです。

弊社ではカリプソやニコノスⅠ~Ⅲ型の整備は30,000円(税別)で行っています。ただし防水性能は保証できませんので、その点はあらかじめご了承くださいますようお願いいたします。また宮崎R&Dではニコノス用Wニッコール35mmF2.5レンズのライカマウント改造を行っておりますので、ご興味ある方はどうぞお問い合わせください。