今月の一枚

2009年12月 ベッサⅡ型アポランター付き BessaⅡ

横から。ピント合わせは下側(左手側)のノブで行う。中心は被写界深度目盛り。

背面から。フィルム送りは赤窓式(蓋がされている状態)。

アポランター105mmF4.5レンズ。

ボディ内部。

作例1 浅草寺平成本堂大営繕 1/250秒 F11 フジ160S

 作例2 宝蔵門 1/250秒 F11 フジ160S

作例2 宝蔵門 1/250秒 F11 フジ160S

作例3 2010年寅年  1/250秒 F11 フジ160S

作例4 影 1/250秒 F11 フジ160S

 

解説

フォクトレンダー社はW.A.モーツァルトがザルツブルクに生まれた1756年、同じオーストリア(当時は神聖ローマ帝国)の首都ウィーンで、24歳だったヨハン・クリストフ・フォクトレンダー2世が創業しました。つまり世界でもっとも古い歴史を持つカメラメーカーでした。フォクトレンダー社は当初は測量用コンパスなどを製造していたということです。

1839年フランスのダゲールが銀板写真法を発明、ついに人類が写真を手にする日が来たのですが、フォクトレンダー社3代目のペーター・ヴィルヘルムはわずか2年後の1841年に世界最初の全金属製ダゲレオタイプカメラを発売しています。このカメラはウィーン大学のペッツバール博士が開発した、当時世界一の明るさF3.7を誇るペッツバールレンズが備わった画期的な性能のカメラでした。このカメラは現在博物館などで見ることができますが、後年フォクトレンダー社が製造したレプリカも存在しています。

1848年オーストリアが政情不安となり、ペーターはフォクトレンダー社の本拠地をドイツのブラウンシュバイクに移すことを決めました。そして1852年に移転の許可がおり、最後までここが本拠地となりました。20世紀に入るまで、フォクトレンダー社の主力商品はカメラ以外の光学機器やレンズでした。例えば1893年には独自開発の高性能なアナスティグマートレンズ「コリニア」を発売、1900年にはツァイスのテッサーと並ぶ名レンズと今も褒め称えられる「ヘリア」が登場しています。

1876年に4代目フリートリッヒ・ヴィルヘルムが事業を継承、1900年頃からカメラの製造を開始します。最初は他のドイツのカメラメーカの製品と似た、あまり特徴のないカメラが多かったようです。しかし1924年にフリートリッヒが亡くなり、フォクトレンダー一族による経営が終焉すると、経営の近代化と共に、フォクトレンダー社は多数の独創的なカメラを世に送り出すようになり、戦前の黄金期を迎えることになります。

フォクトレンダー社の製品で、ロールフィルムを使用する蛇腹折り畳み式カメラは数多くあります。初期のものとしてはロールフィルム・フォールディング(1927)があり、これは150万台を売ったという大ヒット作ベッサ(1936)に発展します。プロミネント(1933)、ビルタス(1934)、ペルケオ(1933)は非常に仕上げの美しい高級カメラで三兄弟と言われています。プロミネントには廉価版とされるイーノス(1934)がありました。大ヒット作のベッサは、連動式距離計を内蔵した高級型スーパーベッサ型(1936)に発展します。小型のベビーベッサ(1939)は戦前最後のモデルとなりました。

第二次世界大戦後いち早く操業を再開したフォクトレンダー社は、当初戦前のモデルを再生産しましたが、まず中判スプリングカメラとしてベッサ46とベッサ66を1948年に登場させました。このベッサ66は1951年にペルケオIとII、単独距離計を内蔵したペルケオEに発展します。続いて1950年には戦前のベッサを近代化したベッサI型とベッサII型が登場しましたが、これがフォクトレンダー社の中判スプリングカメラの最後となってしまいました。

さて今回ご紹介するベッサⅡ型は、戦前ベッサシリーズの最高級機だった6x9cmフォーマットで上下像合致式連動距離計とファインダーを別々に内蔵したベッサRFの後継機で、一眼式連動距離計を備えたデザインがシンプルでとても美しいカメラです。6x9cm判スプリングカメラとしてはフォクトレンダー社最後のモデルです。取り扱いは容易で、初めてスプリングカメラを手にする方でも、説明を受ければすぐに使いこなせるようになるでしょう。大きな特徴としては、ピント合わせを左手側のノブで行います。フィルム送りは一般的な赤窓式ですが、蓋を内蔵しているので、正しく操作すれば漏光することはありません。

装着されているレンズはカラースコパー105mmF3.5(3群4枚)と、上級のカラーヘリア105mmF3.5(3群5枚)があります。いずれもフォクトレンダー社を代表する名レンズで、その写りのすばらしさには定評があります。さらに放射能元素を含む特殊ガラスを採用した超高性能レンズ、アポランター105mmF4.5(3群5枚)を装備したモデルがごく少数あります。今回作例をご覧に入れるのは、このアポランターレンズによるものです。周辺まで妥協のない画像が得られるたいへん優れたレンズで、特にカラーでの色にじみがまったく認められません。現代的な写りとも言えますが、高性能な中判カメラを求める方には最良の選択の一つでしょう。

このアポランター付きのベッサⅡ型は、数あるスプリングカメラの中でももっとも高価なカメラのひとつですが、それは洗練されたその姿に加えて、アポランターの性能の素晴らしさとその希少性によるものです(一説には数百台)。戦前のプロミネント(花魁)ともどもフォクトレンダー社のお宝カメラです。

弊社ではベッサⅡ型やプロミネント(花魁)などのフォクトレンダー社製蛇腹カメラの修理をお受けしています。どうぞ遠慮なくお問い合わせください。