今月の一枚

2010年2月 ニコン28Ti装着ニッコール28mmF2.8レンズ 宮崎式ライカマウント改造

横から。

ニコン28Tiと今回改造したレンズ。

ライカM4-2に装着したところ。

作例1 Blanche F8 1/250

作例2 配管造形 F4 1/60

作例3 潜水工事 F11 1/250

作例4 F2.8開放、F5.6、F11の比較画像3種類

 

解説

今回ご紹介するのは、宮崎R&DでライカMマウントに改造されたニッコール28mmF2.8レンズです。このレンズは1994年9月に登場したニコンの高級コンパクトカメラ、ニコン28Tiに装着されているレンズそのものです。

ニコン28Tiは、1993年12月に発売が開始されたニコン初の「ニッコール」レンズを搭載した高級コンパクトカメラ、ニコン35Tiに続いて登場した兄弟機です。当時この高級コンパクトカメラの分野では、キョーセラがコンタックスTからT2という路線で先行すると同時に評価を高め、コニカがヘキサノン35mmF2レンズを搭載したヘキサーを出し、高級なレンズを装備した金属外装の全自動コンパクトカメラが脚光をあびていました。ニコンは1983年にL35AF「ピカイチ」でコンパクトカメラ市場に参入して以来、「ニコンレンズ」銘のレンズがついた普及機クラスのプラスチック製コンパクトカメラをシリーズ化していましたが、時代の波を追って登場させたのが35Tiと28Tiだったのです。

写真工業誌1994年3月号に掲載されたテストレポート中のニコン自身の解説によれば、「実用性をきわめた「映像表現の道具」として本物志向に応えるべく、まず描写性能の格段の向上をめざし、それを生かす操作性とデザインを追求することによって開発を進めた」そうです。つまりこのカメラの最大の魅力は、新設計のニッコールレンズにあると言って良いでしょう。 35Tiと28Tiは、それぞれのカメラのために新しく開発されたニッコールレンズを備えています。

35Tiのニッコール35mmF2.8レンズは4群6枚対称型で、高級硝材を使用し広帯域多層膜コートを採用、レンズ全群繰り出し、レンズ内絞りなどの機構により、1)像面の平坦性 2)色ずれ 3)歪曲収差 4)周辺光量 5)ボケ味の各点について一眼レフ用ニッコールレンズと同等の性能を確保したと解説されています。私の記憶では、35Tiの初版のカタログには「同等以上」と記されていたはずですが、その後「同等」に修正されてしまいました。

28Tiの28mmF2.8レンズは5群7枚対称型で、やはり一眼レフのニッコールレンズと同等「以上」の性能を確保したと説明されています。宮崎の解釈によると、対称型構成にレトロフォーカスの考え方を取り入れた斬新な設計だとのことです。いずれのレンズも絞り開放から実にシャープで、歪曲収差がほとんどなく、すっきりとした気持ちの良い描写です。

このカメラにはユニークな特徴が多く、時計の機構を流用したという世界初の多針式アナログ表示部や安定した露出を与える6分割マルタパターン測光の採用など、高価なカメラにふさわしい内容でした。 ところが、28Tiのみで生じることなのですが、時々周辺光量が著しく落ちることがあります。絞り開放の時には必ずやや周辺光量が低下するのですが、これは対称型レンズの特性というべきもので、作画上大きな問題になるものではないでしょう(作例参照)。しかし28Tiでは不思議なことに高感度フィルムを使用して日中屋外でプログラム撮影をした場合、あるいは絞り優先AE撮影で最小絞りにした場合など、ひどく周辺光量が落ちケラレといっても良い状態になります。通常レンズはある程度以上に絞ることで周辺光量の低下が改善しますから、この問題はレンズ自体の性能によるものではないはずです。

今回改造を依頼された方は、当時この28Tiを購入したばかりでトルコ旅行に持参したそうなのですが、帰国後にリバーサルの現像結果をみてその悲惨さにニコンのサービスセンターに駆け込んだそうです。私もかつてニュージーランドへ天体写真撮影に出かけたときにこの28Tiを持参したのですが、集合写真などがほとんど全滅したという痛い経験をし、それ以来28Tiは貴重なコレクションになっています。ニコン28Tiは発売されてから、異常な?短期間で販売が終了となっています。35Tiはその後も販売が続けられていましたから、とても不思議に感じたことを覚えています。

さて、今回のライカマウント改造にあたっては、レンズを摘出した後のカメラ本体の絞りは使用できないため、別製の絞りユニットを調達し、オリジナル同様前群後群の間に配置しています。ただしその位置については、宮崎が見直しを行っています。そして完成したレンズで撮影した結果が作例の通りで、F5.6以上に絞った場合周辺光量の変化がなく、オリジナルの28Tiでの撮影結果と比べて大幅に改善しています。そして絞り開放から最小絞りにいたるまで見事としか言いようがない、鮮明な描写になっています。つまりこれが本来のこのニッコール28mmF2.8レンズの性能なのです。その上F2.8の明るさにかかわらず大変にコンパクトで、携帯性の良さは抜群です。このレンズに比べれば、今までライカマウント用に発売されてきた各種の28mmF2.8級レンズの巨大さが嫌になってしまうのではないでしょうか。

なお今回の改造は35Tiも可能です。改造費用は35Ti/28Tiいずれも67,000円(税別)です。マウントはライカMマウントのみ、もちろん距離計完全連動、最短撮影距離は0.8mです。フィルター径は37mm、前後キャップは付属しません。キャップについては山嵜ヘラ絞り製作所の特注キャップの製作が可能です。純銀製などおしゃれだと思います。なお改造については、部品払底により中止になる可能性が高いため、お問い合わせください。

★作例写真はすべてライカM2で撮影。フィルムはフジ業務用フィルム(ISO100)