今月は弊社で修理を完了したばかりのカメラ、ドイツのヴィルジン(Wirgin)社のエディネックスをご紹介いたします。
1920年代にヴィルジン氏によってヴィースバーデン(Wiesbaden)に設立されたヴィルジン社は、1930年代初めからカメラ製造を開始しました。有名なモデルは35mm判フィルムを使用するエディネックスと、127判フィルムを使用するゲビレッテ(Gewirette)などです。特にエディネックスは成功したシリーズモデルで、アドック(Adosx)社のアドレッテ(Adrette)シリーズとしても販売され、また米国でも別名で販売されています。
ヴィルジン氏は1938年に米国に移民しましたが、戦後ただちに西ドイツに戻って戦災で破壊された工場の再建に着手し、1948年頃からカメラ製造を再開します。エディネックスは距離計連動型に発展し、さらに1953年からは新しくエディクサ(Edixa)という名前でデザインが一新された35mm判小型カメラとなります。また16mmフィルムを使用するエディクサ16というシリーズも登場しました。この戦後の新しいヴィルジン社のカメラをデザインしたのは、後にローライ35など数々のカメラ史上に残る傑作カメラをデザインしたことで著名な、ハインツ・ヴァースケ(Heinz Waaske)でした。
1954年頃からは戦後のヴィルジン社を代表する35mm判フォーカルプレーンシャッター式一眼レフ、エディクサ・レフレックスのシリーズが展開します。M42プラクチカマウントのレンズ交換式のこのカメラは、長年にわたり製造され、おびただしいバリエーションが知られています。1960年代には35mm判レンズシャッター式の一眼レフも開発され、エディクサ・エレクトロニカ(1962)などの機種が登場しました。
1961年にヴィルジン社はフランカ・ヴェルケ社に買収され、その後1968年に破産してしまいます。新たにエディクサ有限会社(Edixa G.m.b.H.)が設立されて事業を継承したのですが、この会社も1971年には休業となります。その後は「エディクサ」は写真用品の卸売業者のブランドとして使われました。
さて今回ご紹介するエディネックスは1935年頃から製造が開始された戦前型です。エディネックスは35mm判フィルムを使用する全金属製小型カメラで、レンズシャッターユニットとレンズが備わった前板部が沈胴します。左右のフィルム室部分が膨らんだ独特のデザインがユニークですが、シンプルな構造で使い勝手は悪くありません。クセノン(Xenon)50mmF2などの大口径レンズを備えたモデルは鏡胴基部がヘリコイドになっていて、前板部全体が前後してピント合わせを行いますが、ゲビロナール(Gewironar)50mmF4.5などの開放F値の暗いレンズを備えた廉価版は前玉回転式のピント合わせを行います。距離計は備わっていないので、ピント合わせは目測で行いますが、ボディ上部に単独距離計を装着できるようになっています。
写真のカメラはエディネックスの中でも珍しいタイプで、ピント合わせはヘリコイド式なのですが、ヘリコイドが沈胴基部ではなくて、シャッターユニット後方に備わっています。レンズのラジオナー50mmF2.9レンズは、シュナイダー社のトリプレットタイプですが、絞れば十分シャープです。逆光ではフードが欲しいですね。
ヴィルジン社のカメラの整備は、一眼レフのエディクサも含めていろいろ実績がございますので、どうぞ遠慮なくご相談ください。