今月の一枚

2015年6月 OPフィッシュアイニッコール10mmF5.6

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最前面レンズは研削非球面レンズになっている。

最前面レンズは研削非球面レンズになっている。

後部が突出しているため、カメラをミラーアップする必要がある。

後部が突出しているため、カメラをミラーアップする必要がある。

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リアキャップにはファインダーを格納できる。

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OT-Scope-Nikkorの鏡胴。

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作例1 雷門 F8 1/125

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作例2 東武ガード下 F5.6 1/60

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作例3 隅田川 F11 1/250

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作例4 水上バス乗り場前 F11 1/250

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作例5 新仲見世通り F5.6 1/60

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作例6 ある日の委託品展示棚 ソニーα7で撮影

1970年代から1990年代前半にかけてニコンが発行していたニッコールレンズカタログは、他のカメラメーカーやレンズメーカーのカタログには見られ ない、独特のオーラに充ち満ちていました。それはニッコール独自の魚眼レンズ、超広角レンズ、超望遠レンズ、大口径レンズ、マイクロレンズ、UV撮影用レ ンズ、メディカル用レンズなど、驚くような性能のレンズが所狭しと並んでいたからです。もちろんどれもとても手が出るような価格のレンズではありませんで したが、尊敬の念を抱くには十分ものばかりでした。今でも私の世代のニコンユーザーだった仲間が集まると、ニッコールレンズカタログの話題で大いに盛り上 がりますから、思うことは皆同じなのでしょう(笑)最近のカタログは、ぱらぱらとめくったらあとは資源リサイクルボックス行きです。

さて日本光学工業株式会社は、その生い立ちが光学兵器を開発することを目的としたためか、きわめて限定された用途向けのレンズをいろいろ市販してきた歴 史があります。特に他メーカーに比べて魚眼レンズの種類が圧倒的に多く、それは12種類におよびます。魚眼レンズと言えばまさにニッコールの独壇場といっ て良いでしょう。

今回ご紹介するOPフィッシュアイニッコールは、ニッコール魚眼レンズ群の中でも特にユニークなもので、レンズの第一面に非球面レンズを用いることで、 正射影方式を実現した魚眼レンズとして知られています。世界で初めて一眼レフ用カメラに非球面レンズを採用したレンズという説明が、当時のカタログなどに あります。ニコンF全盛の1968年5月に発売が開始されました。

正射影方式というのは天空の輝度分布を計測するのに適当な方式で、像の大きさをy、焦点距離をf、天頂角をθとすると、y=f・sinθの関係が成立す るので、同じ輝度をもった物体が画面上のどの位置にあっても、一様な濃度に写るという性質があるそうです。一般的な等距離射影方式の魚眼レンズでは、 y=f・θの関係が成り立つため、写されたものの中心から画面中心までの距離と、天頂角が比例し、天体の位置や方位測定、雲量の測定などに好適とのことで す。これらについてはニコンのホームページのニッコール千夜一夜物語に詳しい解説がありますので参照してください。

一般撮影にこの正射影方式の魚眼レンズを使うと、等距離射影方式に比べて中央部が大きく写る性質があるため、中央部の被写体を強調したおもしろい写真を 撮影することができます。ただしこのレンズはミラーアップしなければカメラに装着できません。外付けのファインダーが付属しますが、このファインダー DF-1は画角160度までしか見えませんし、特にOP専用に開発されたものではないので、OP独特の描写は撮影結果をみなければわからりません。しかし 最近登場した他社のフルサイズ判ミラーレスカルラを使用すれば、ライブビューで画像を確認しながら撮影することが可能です。良い時代になったものですね (笑)

さて、このレンズは用途が非常に限られたレンズですので、製造番号でみる限りきわめて少数しか
製造されなかったようです。現在の中古市場ではたいへん珍 しいレンズのひとつになっています。発売時の価格は109,000円、1978年時点の価格は132,000円でした。1980年頃販売終了しました。

なおこのOPフィッシュアイニッコールが誕生するきっかけになったのは、建築学の研究に使用するために正射影方式の魚眼レンズの開発依頼が東大と東京理 科大より日本光学にあり、それに対応すべくOT-Scope-Nikkor 11mmF32レンズという正射影方式の魚眼レンズが開発されたことによるそうです。このレン ズは2本製造されたそうですが、現在では1本の現存が確認されているだけです。

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★撮影に使用したカメラはニコンF。フィルムはコダックウルトラマックス400