フランスのレンズメーカーのひとつ、アンジェニュー(Angenieux)社の名前は日本でも大変に有名です。それは1950年にピエール・アンジェニュー(Pierre Angenieu)が発表した、世界初の35mm判一眼レフカメラ用レトロフォーカス(Retrofocus)型広角レンズであるレトロフォーカス35mmF2.5や、それに続く1953年のレトロフォーカス28mmF3.5などによるものでしょう。そもそも「レトロフォーカス」とはアンジェニュー社の広角レンズの固有名ですが、それがこのタイプのレンズ名の代表として現在も通用することから、そのインパクトの凄さがわかります。
レトロフォーカスタイプのレンズの特徴は、焦点距離に対してバックフォーカスが長いことです。このタイプのレンズは一般的な撮影レンズの前に、バックフォーカスを延ばすためにアフォーカルワイドコンバータあるいは負のパワーを持つレンズを配置することから始まりました。すでに第二次世界大戦前から小型シネカメラ用の標準あるいは広角レンズとして、レンズ前方に負レンズを配置したタイプのレンズが実用化されていました。これはシャッター機構やターレット式レンズ交換機構とレンズ後端の干渉を避けるためだったそうです。
ピエール・アンジェニューは1907年7月14日にフランスのサン・テアン村に生まれ、光学設計技術を学んだ後1930年にフランス最大の映画機器製造会社であったパテ(Pathe)社に入ります。その後自分の工房を造り、第二次世界大戦中にはスイスのピニオン社製35mm判一眼レフカメラ、アルパレフレックス(1939年)用の標準レンズを少量生産しています。戦後35mm判一眼レフが世界各国に次々に登場し始めますが、ドイツのエキザクタ、スイスのアルパそしてイタリアのレクタフレックスなどに標準レンズや望遠レンズを供給しました。そして1950年にレトロフォーカスタイプ第1号のR1シリーズ35mm f/2.5レンズを発売したのです。続いてR11シリーズ28mm f/3.5レンズが1953年に、今回ご紹介したR51/R61シリーズ24mm F/3.5レンズは1957年に発売されました。
レトロフォーカスタイプのレンズは、反射ミラーがあるためにバックフォーカスが必要な一眼レフカメラの広角レンズとして決定版となり、様々なカメラメーカやレンズメーカーが改良を重ねて現在に至ります。最近は広角レンズばかりではなく大口径標準レンズとしても採用されるようになり、レンズのさらなる高性能化を実現しています。
今回ご紹介するレトロフォーカス R61 24mmF3.5レンズは、エキザクタマウント用です。絞りセットリングがレンズ鏡胴上側にダイヤル式になっています。絞り動作は半自動式で、鏡胴下のセットレバーでバネをかけ、エキザクタカメラのシャッターボタンに直接連動する絞り込みボタンを押すと、自動的に設定値まで絞られます。最短撮影距離は0.4mです。このレンズの細かな梨地クロームメッキ仕上げの外観は、とても高級感があります。アルパ用のこのレンズも外観はほぼ同じで、どちらにもブラック仕上げもあります。実はとても珍しいレンズで、全体の生産本数は千本ちょっとしかないとも言われています。
実は私もこのレンズで撮影するのははじめてで、トプコンREスーパーに装着して撮影してみたのですが、その素晴らしい描写に驚きました。作例を見ていただくとわかるように、描写がどれも大変美しいのです。現像が出来上がって来たときに感激してしまい、今月の一枚でご紹介することにした次第です。
なお弊社ではこのレンズを含めて、アンジェニュー社の様々なレンズの分解整備が可能です。また宮崎光学のアンジェニュー用MS-58フードをこのレンズにお使いいただくことが可能で、製品は常時在庫しております。どうぞお問い合わせください。
Angenieux Retrofocus type R61 24mmF3.5 for Exakata
★作例写真 フィルムはフジ業務用フィルム(ISO100)