今月の一枚

2017年11月 リッチレイ・シックス

2017年11月 リッチレイ・シックス
中央の反射ミラーが「ポーズミラー」

2017年11月 リッチレイ・シックス

フィルム送りは赤窓式。セミ判と6x6cm判の切替は、赤窓の蓋の操作で外部から可能

2017年11月 リッチレイ・シックス

ポーズミラーの周囲のリングを回すと絞りが切り替えられる。3段階

2017年11月 リッチレイ・シックス

底には三脚穴があるだけ

2017年11月 リッチレイ・シックス

フィルム装填は、上カバーをとりはずしてボディ上部から行う

2017年11月 リッチレイ・シックス

上カバー、専用フード、フィルム圧板

2017年11月 リッチレイ・シックス

カメラの元箱

2017年11月 リッチレイ・シックス

取扱説明書

2017年11月 リッチレイ・シックス作例

1/100 F16

2017年11月 リッチレイ・シックス作例

1/100 F16

2017年11月 リッチレイ・シックス作例

1/100 F16

2017年11月 リッチレイ・シックス作例

1/100 F16

2017年11月 リッチレイ・シックス作例

セミ判で撮影 1/100 F16

 

リッチレイ・シックスは国産カメラの中でも珍品中の珍品のひとつです。クラシックカメラ店の店頭に並ぶことは滅多になく、早田カメラ店でも六十余年の歴史の中で、一度だけ販売したことがあるそうです。すぎやまこういち氏の「国産カメラ図鑑」での稀少度は星4個と入手にはかなりの年月がかかるという激レア品という位置づけです。ちなみに星5個は、試作品など製造台数が数台のレベルで入手不可能なものとなっています。今回委託品でお預かりしたのを機会に今月の一枚でこうしてご紹介できるわけですが、委託品の店頭に並ぶこのカメラをご来店されたお客様は皆はじめて見たとおっしゃいますので、本当に珍しいものであることがわかります。なにしろ弊社のお客様方は、暇があればおもしろいカメラを探して数多くのカメラ店を彷徨し、ネットを探索することを生きがいとされているような方ばかりですから。

さてリッチレイ・シックスは単に珍しいカメラだというだけではありません。カメラの構造が大変にユニークで、ほとんど他に例を見ないものなのです。一見35mm判カメラのように見えますが、実は6x6cm判と6×4.5cm判の撮影が可能な中判カメラです。しかし前板部は固定されていて、蛇腹で繰り出されるというようなことは一切ありません。なんと内部に2枚の反射ミラーが内蔵されたZ光軸光学系が採用されています。Z軸光学系を横方向に組み込むことで、この薄いボディを実現しています。そもそも世界的にみてもZ光軸光学系を採用したフィルムカメラは、国産のTOMY、フランスのシクロープなどごくわずかしかありません。

実はこのリッチレイ・シックスは、中央にレンズのように見えるものは反射鏡で、自分を撮影する際にこの鏡に映る自分の姿をみて構図とポーズを決めると説明されています。たぶん「自撮り」機能を意識的に搭載した世界最初のカメラではないかと推測します。この反射鏡は「ポーズミラー」と呼びます。すごいですね!!

実際の撮影レンズは反射鏡の右側にある空洞の中にあるメニスカス単玉で、ローゼット80mmF8でコーティング付きです。ピントは固定焦点で1.5m~無限遠です。露出は3段階のシャッター速度(1/25、1/50、1/100)と3段階の絞り(F8、F111、F16)で調整します。シャッターはエバーセット式、シンクロ接点も内蔵しています。

フィルム装填は上カバーをはずしてボディ上部から挿入するというのも大変珍しい方式です。フィルム装填時に背面の圧板をとりはずすようになっています。フィルム送りは赤窓式ですが、背面の赤窓のセミ判と6x6cm判の切替を行いますと、ボディ内部のフレーム枠が同時に切り替わるという凝った構造になっているのも驚きです。撮影中にフォーマットを切り替えできる点が評価されて「日本の歴史的カメラ」に選定されています。ボディ上部のファインダーにはセミ判を示す色枠があります。

このカメラには専用フード、元箱、説明書が付属していました。私の記憶する限りでは、これらの写真が掲載されたクラシックカメラの文献を知りません。説明書によれば、迷光を防ぐために撮影の際には必ず専用フードを装着するように、と書かれています。

ともかくあらゆる点がユニークでおもしろいカメラで、宣伝用のキャッチフレーズは「大人のリッチレイ・国民カメラ」です。製造元はリッチレイ商会、発売は1952年(昭和27年)、発売時の価格は4,000円でした。

今回テスト撮影をおこないましたが、撮影しやすいカメラでした。ベークライト製のボディは軽量で、各部の操作は容易、シャッターは軽快に切れます。撮影結果を見ますと、画面の中央部はびっくりするくらいシャープで鮮明ですが、四隅に向かって像がぼけていきます。反射鏡に汚れがあるためか、縁の方でもやもやとした黒い影が映り込みました。またボディの一部から露光もありました。ですが、単玉レンズとしてはなかなか良い写りだと思いますし、Z光軸で2回反射されているのに鮮明であることには感心しました。

弊社では本機のような珍しいカメラの分解整備もお受けいたしております。

★フィルムはフジ160NS